特集 地方インターンシップ Vol.1
戦略ある交流のため
よそ者の受け皿をめざす温泉旅館
労働力不足が日本全体で叫ばれている昨今、地方においては喫緊の課題。その穴を外国人移住者で埋めようと外国人雇用に注目が集まっています。
ところで、外国人雇用は本当に進んでいるのでしょうか。日本に就職希望の外国人留学生は約64%ですが、実際に大学を卒業・修了した内に国内就職したのは約31%。日本で働きたい外国人がいるのに、実際には働けていないのが実情です。
石川県加賀市の山手に入ったところ、湯気が立つあたりが1300年の歴史を誇る山中温泉。ここに佇む温泉旅館『お花見久兵衛』には4ヵ国の外国人移住者たちがスタッフとして活躍しており、温泉旅館において欠かせない存在となっています。
なぜお花見久兵衛に外国人移住者が集まるのか、そして外国人雇用を積極的に推進するワケを知るべく、大学生インターン生が潜入調査しました。
インターン生受け入れ企業
有限会社吉花/代表取締役 吉本龍平
実家の旅館の跡を継ぐため、23歳で石川県加賀市へUターン。個人客中心のビジネスモデルへ転換。「次世代の旅館文化の創造」を使命に、新たな改革に挑戦している。
インターン生
東洋大学4年生 金木葉奈
「地方における外国人移住者」をテーマに卒業論文を執筆するためインターン生に。フロント・キッチン業務などの職業体験と、4名の外国人移住者と幹部、経営者へのヒアリングを基に課題提起を行った。
職場活性化のための外国人雇用
〈吉本社長〉
現在4名の外国人移住者がスタッフとして在籍、それぞれポーランド、中国、ベトナム、香港と国籍はバラバラ。
本当ならば、2020年の今年はハンガリーの方を雇用する予定でしたが、新型コロナウイルスから来日延期となりました。
外国人雇用に着手した理由は、深刻な人材不足だったからです。台湾人を複数募集した海外インターンシップからスタートし、そこから試行錯誤を繰り返す中で、最近ではヨーロッパからアジアまで多くの方々を受け入れていました。
ただし、本来的な目的は「職場活性化」。ビジョンである『次世代の旅館文化の創造』を実現するために、新たな刺激と学びが必要と考えています。そういった意味で、国内外問わず、いわゆるよそ者を積極的に受け入れる方針ですね。
私たちからすれば「職場活性化」のために、よそ者からすれば「ステップアップ」のために。お互いが目的意識がある交流を、もっと増やしていきたいです。
外国人移住者やよそ者は、不可欠な存在。
〈吉本社長〉
とはいえ、外国人移住者のインパクトは大きいです。文化や価値観が異なると、普段あたりまえとしていることに疑問を呈します。実際に、外国人移住者からの職務意識や労働観についての疑問が、職場環境を変える契機となりました。
また単純に、よそ者との交流は楽しみの1つなんです。年間を通して大学生インターン生や、海外から外国人インターン生を受け入れていたところ、2020年はそのほとんどがストップ。スタッフからは寂しいとの声が聞こえていました。
うちにとってよそ者は、もはや必要不可欠な存在となっていたんです。そんな経緯もあり、この度は地域おこし協力隊の迫さんからご依頼いただき、二つ返事でご承諾しました。
インターンシップ参加前に地域入りし、2週間の外出自粛期間を自主的に設けていただいたため安心して受け入れることができました。スタッフ一同、本当に楽しみにしていたインターン生受け入れでしたね。
インターン生の潜入調査
外国人移住者の本音から見えた加賀市の課題
〈金木/ インターン生〉
4名の外国人移住者のスタッフ全員にヒアリングしました。驚いたことに、全員がお花見久兵衛を働きやすいと感じていたんです。
職場の雰囲気が明るいこと、そして外国人としてではなく、1人のスタッフとして職場から受け入れられていると感じていました。
もちろん課題もありました。生活に関することが多く、とくに移動の問題は深刻です。バスの本数が少なく電車もない地域なので、車が無いとたいへん不便。だが、免許取得と車の購入は外国人移住者にとってハードルが高いようです。
現状は職場内スタッフが移動サポートをしてくれるおかげで助かっていますが、移動の問題は加賀市全体の課題かもしれません。
一緒に働いていて気づいたのは、外国人移住者はすでに職場の中心的存在でした。労働力不足を埋める存在ではなく、むしろ旅館に欠かせない存在だったんです。
今後の日本社会においても、外国人の役割と必要性を強く感じました。
温泉旅館の発展のため、よそ者を活かす受け皿に
〈吉本〉
よそ者を受け入れ、多様性ある旅館づくりを目指しています。その目的は、われわれの目指すビジョンを実現するため。観光客と住民の垣根を超えるような交流を生んでいき、それが地域課題の解決を助け、広くは日本再興を担うような、そんな壮大なビジョンを描いています。
そこにご共感いただければ、外国人移住者も、よそ者も変わりなく受け入れたいです。事実、金木さん(インターン生)は私たちからすると異なる感覚を持っているし、外国人移住者にも無い刺激をいただきました。そのような交流の受け皿の役割として、旅館が存在し続けたいです。
今回このような状況下でインターンシップに参加してくれた金木さんに感謝しています。今回の交流をきっかけに、これからも私たちや加賀市と関わり続けてくれたら嬉しいです。また是非、いらしてください。
参考文献
「平成28年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果」
「平成27年度私費外国人留学生生活実態調査」
今回のインターンシップについて
今回のインターンシップは加賀市地域おこし協力隊(迫)がコーディネートしており、加賀市定住促進協議会としてインターン生の募集を行っておりません。
インターンシップ実施前にインターン生に地域入りをしていただき、2週間の外出自粛期間を設けました。その間は毎日の体温測定と体調チェック、不要不急の外出を控えるなどの対策を取りました。
地域おこし協力隊 迫 真琴