特集 地方インターンシップ Vol.3
人との繋がりが私の世
界を彩る、
その原理を地域から学んでいます。

金木さんがマスクしている様子

 

国が地方創生を掲げるなかで、地域発展系の学部・学科を創設する大学が増えています。その影響からか、地方に関心を寄せる大学生が増えているように思えます。

そのような流れから、石川県加賀市では2016年から大学生と市民によるまちづくりを目指す「PLUS KAGA」が展開されており、毎年こちらに全国津々浦々の活気溢れる大学生が参加してくれています。

このたび『お花見久兵衛』のインターンシップに参加した金木さんは、首都圏の大学生でした。なぜ大学生が地域に興味を抱くのか、約1か月の滞在で感じた加賀市の魅力・課題とは、また旅館スタッフの役割についてを語って頂きました。

(2020年10月2日 インタビュー)

 

インターン生受け入れ企業

吉本さんの笑顔

有限会社吉花/代表取締役 吉本龍平

実家の旅館の跡を継ぐため、23歳で石川県加賀市へUターン。個人客中心のビジネスモデルへ転換。「次世代の旅館文化の創造」を使命に、新たな改革に挑戦している。

Vol.1 外国人移住者が多い温泉旅館

インターン生 

金木さんの笑っている写真

東洋大学4年生 金木葉奈

「地方における外国人移住者」をテーマに卒業論文を執筆するためインターン生に。フロント・キッチン業務などの職業体験と、4名の外国人移住者と幹部、経営者へのヒアリングを基に課題提起を行った。

Vol.2 交流の価値を社長とインターン生が語る

 

お花見久兵衛の外観写真

旅館内のフロントの様子

 

 

新たな発見と気づきに囲まれた日々

 

〈迫 / 地域おこし協力隊〉

石川県加賀市で約1カ月の滞在でしたね。2週間の自粛期間も含め、本当にお疲れ様でした。

東京に帰られて2日経ちましたが、今どんな気持ちですか?

迫 真琴氏
迫(インタビュアー)


 

金木さんの笑っている写真
金木さん(インターン生)

〈金木 / インターン生〉

寂しいような、空しいような。東京での生活に戻ると、いきなり世界がギュッと狭くなった感覚になりました。人と接することや、外に出る機会が圧倒的に減りましたね

 

 

〈迫〉

世界が狭くなった、ですか。それほど石川県加賀市での1カ月が充実したんですね。

 

〈金木〉

かなり充実した日々でした。新たな発見や気づきがとにかく多く、まるで未知の世界に紛れ込んだ感覚。それくらいグーンと世界観が広がりました。       

  

〈迫〉

充実したと振り返った時、真っ先に何が浮かびますか?

 

〈金木〉

小さなところでさえ、私の住む世界との違いを感じた時です。スーパーで売っている地魚の種類を見たり、まちの風景をみたりする中で、違いを発見するたびにワクワクしていました。

 

〈迫〉

他の地域に来ると、普段気づかないことにも目がいきますよね。

 

紙を持って発表中
オンラインでのインタビュー&振り返りの様子

 

 

迫〉

石川県加賀市に初めて来たとき、率直に感じたことは?

 

〈金木〉

加賀温泉駅に降り立って最初に感じたのは「あれ、あんがい普通だな」って(笑)。『加賀温泉』の名前から温泉をイメージしていたところ、駅からは温泉感があまり伝わりませんでした。

 

〈迫〉

たしかに駅から『加賀温泉』はあまり伝わらないですね(笑)。

来る2023年の北陸新幹線の延伸に向け、JR加賀温泉駅は2020年現在リニューアル工事中ですが、温泉らしさがより伝わるものになるといいですね。

駅の看板前で金木さんがピース
到着しての記念撮影
駅からのぞける山代温泉
加賀温泉駅の南 田園風景先に雲がかかる温泉街

 

 

 

「地方の衰退×都市の無縁社会」を横目に地域をみつめる

 

〈迫〉

生まれも育ちも東京、都内の大学に通う金木さんが地方に興味を持ったきっかけは?

 

〈金木〉

幼いころから祖父母の住む地方が好きでした。私が大きくなるにつれ衰退が目に見えるようになり、高校生くらいの時に「どうにかしなきゃ」と漠然と思っていました。

 

〈迫〉

地方衰退の現実を見てきた中で、地域に着目したのですね。東洋大学へ進学したのも地域活性化について学ぶためでしたか?

 

〈金木〉

そうです。私が所属する国際学部/国際地域学科では現場主義を重視し、所属する研究室では石川県の能登半島をフィールドに毎年研究・調査をしています。

 

農作業をする金木さん
能登半島でのフィールド調査のいち場面

 

 

 

〈迫〉

ずばり地方の好きなところは?

 

〈金木〉

東京にないものがあるところです。

無縁社会に慣れ切っている私は、とにかく地方の人間関係が新鮮に感じます。ご近所づきあいの中でお野菜を頂けたり、顔が見える関係で知り合いが増えていく経験は、首都圏には限りなく少ないです。人のつながりが人生を豊かにする、そんなことを地方にいると学べます。

 

〈迫〉

地元の人には当たり前のものも、首都圏で生まれ育った方にとっては当たり前ではない。そういったものに魅力や価値を見いだすのは、案外首都圏の方かもしれませんね。

 

 

〈迫〉

今回、卒業論文で「地方における外国人」をテーマに選んだ理由は?

 

〈金木〉

日本の人口減少や過疎の問題を、外国人移住者の視点から考えてみたかったからです。学生生活で海外に行く機会があり、多文化共生社会についても興味を持っていました。今後、日本社会を維持するためにも、外国人移住者の役割を明らかにしたかったんです。

インタビュー調査をしている女性   
外国人移住者へのインタビュー調査の様子

 

〈迫〉

なるほど。ところで能登ではなく、なぜ今回の調査は加賀市で?

 

 

〈金木〉

そこには2つ理由があって、1つは能登の外国人移住者を知らなかったこと。もう1つは、迫さんが石川県加賀市の地域おこし協力隊として、移住支援のお仕事をしているのを指導教授からお聞きしたからです。

早速迫さんにご相談したら温泉旅館の外国人スタッフについて教えてくださり、またインターンシップをご提案いただきました。そんな経緯があって山中温泉のお花見久兵衛で調査をすることになりました。

 

〈迫〉

加賀市には縁やゆかりはなかったが、人との繋がりから加賀市に縁ができましたね。

最近の大学生は地方インターンシップに参加したり、新卒で地方移住したりする流れがあります。首都圏の出身者こそ地方への求心力が強いのかもしれず、まさに金木さんもその1人でした。

 

 

 

 

多種多彩のおかずで詰め込まれた
お弁当箱のようなまち

 

〈迫〉

コロナ渦をふまえ、インターンシップ開始より前もって地域入りし、2週間の外出自粛期間を自発的に設けたのと合わせて、約1カ月滞在されました。

金木さんにとっての加賀市の魅力は?

 

〈金木〉

お世辞抜きで、人を惹きつけるものがとにかく多かった。

 

〈迫〉

実際に、金木さんが惹きつけられたものは?

 

〈金木〉

自然の中に人々の生活が息づいているところかなぁ。温泉に毎日通う人がいたり、山・川・海が近かったりと自然と近いところで生きているのを実感しました。

 

山を見下ろす金木さん

 

海の海岸に立つ金木さん

 

〈金木〉

あとご飯が美味しすぎる。普段そんなに食べないのに、お陰様で食が太くなりました(笑)。

 

〈迫〉

それは素晴らしい!! 他にもありますか?

 

〈金木〉

私が陶磁器を好きというのもありますが、九谷焼にも惹きつけられました。全国に知られているものがあることは、凄いことですよね。

 

〈迫〉

セラミック系女子には、加賀市はたまらん場所でしょうね。

 

〈金木〉

そうですね(笑)。

一番の魅力は加賀市で出会った人たちでした。「加賀市をどうにかしたい!」って、思う方が多かったです。そのような魅力ある方と交流できたことは、よく記憶に残っています。

 

〈迫〉

本当に魅力ある人が多いところですし、まだまだお会いしていない方もたくさんいますよ。

逆に、加賀市の課題は?

 

〈金木〉

外国人移住者へのインタビューで明らかになりましたが、市内の移動に困っている人が多いこと。加賀市全体での交通移動の手段や利便性を高めることは地元民にとっても、移住者にとっても重要課題です。

あとは、同じ加賀市にいるのに別々の地域に感じすぎることかなぁ。少し移動すると別のまちに来たような気分になります。「あれ?ここも加賀市?」みたいな。

 

〈迫〉

今の話を聴いていると「おかずいっぱいのお弁当箱」が浮かんできました。藩政時代の城下町、3つの温泉街、漁港・山村集落、新興住宅街、田園風景などの多種多彩な素材が1つの地域にギュッと詰め込まれている。一見『1つの加賀市』というイメージが持ちにくいかもしれません。

 

〈金木〉

そこが悪いということではなく、魅せ方によっては光る魅力ですね!

 

家がいくつか並んでいる通りにある寺院群
城下町の風情を残す大聖寺
山代温泉街
夜をぼんやり照らす山代温泉「古総湯」
海の上に船がいくつかある漁村集落
漁村集落「塩屋」の船着き場
田園風景
5月の田園風景

 

 

 

地域の顔として、魅力発信者であれ

 

〈迫〉

インターンシップを経て感じたことは?

 

〈金木〉

旅館で働くのは難しい、と感じました。

 

〈迫〉

どのような点が難しいのですか?

 

〈金木〉

接客の在り方が十人十色、マニュアル化できないところです。お客様にとって心地よい接客とは何か、を常に考えさせられました。

 

金木さんがエレベーター前で立っている
インターンシップの活動の様子

 

〈迫〉

以前お花見久兵衛(インターンシップ受入企業)の吉本社長との座談会インタビューで「旅館の役割は交流を生み、地域と繋げることだ。」とおっしゃっていましたが、具体的にどのような場面から考えたのですか?

 

〈金木〉

お客様から地域について本当によく聞かれました。「オススメのお土産は何ですか?」とか、「おいしいご飯はありますか?」など多岐にわたりました。事前に迫さんから地域全体を案内していただいた範囲で、なんとか受け答えをしましたが・・・。

 

〈迫〉

つまり、地域の魅力を伝える発信者としての役割ですね。

 

〈金木〉

そうですね。であれば、旅館スタッフが地域のことを知らないのは無責任だと思います。それはお客様にとって、旅館スタッフが地域の顔となるからです。

旅館スタッフは地域の魅力を理解し、お客様の一人一人に合わせてお伝えすることが仕事で、それが地域貢献に繋がります。

 

〈迫〉

なるほど。ある意味ゴールがなく、自分流のホスピタリティを磨き続けていくお仕事。そう思えばやりがいのある、また地域貢献をダイレクトにできるお仕事ですね。

 

 

 

〈迫〉

今後、加賀市とどのように関わりたいですか?

 

〈金木〉

ここまで色々知ると、次はただの旅行では物足りないです。できればまた1カ月くらい滞在したいですね。また今回できた関係を大切にして、少しでも加賀市に根を張りたいなと思います。

 

〈迫〉

いっぱい根を張り、大きく育ってください。

最後に一言お願いします。

 

〈金木〉

たくさんの気づきと学びをくれたまち。そして、とにかく出会う方々の寛容さに心打たれました。何より、私の世界観の広がりを実感できた経験となりました。

コロナ渦にもかかわらず快く接してくれた皆さん、そしてお花見久兵衛の皆さんに感謝をしています。ありがとうございました。

 

〈迫〉

金木さんの人生における、貴重な1ページとなれたことと思います。今回のふりかえりをもって、インターンシップは終了です。卒業論文の執筆頑張ってください!

 

駅の改札にておわかれの様子

『お花見久兵衛』紹介ページ

参考文献

29年度 日本の大学データ|旺文社教育情報センター

 

今回のインターンシップについて

今回のインターンシップは加賀市地域おこし協力隊(迫)がコーディネートしており、加賀市定住促進協議会としてインターン生の募集を行っておりません。

インターンシップ実施前にインターン生に地域入りをしていただき、2週間の外出自粛期間を設けました。その間は毎日の体温測定と体調チェック、不要不急の外出を控えるなどの対策を取りました。

地域おこし協力隊 迫 真琴