なぜ石川県加賀市には、飲食店の開業が相次ぐのか?

盛り付けのディテールにまで美を追求する日本料亭から、親しみやすい庶民派料理を振舞う定食屋まで、多彩な食文化が醸成される石川県加賀市では、近年、新たな飲食店の開業がゆるやかなペースで相次いでいます。フレンチやスペイン料理、町屋BARといったニューウェーブが移住者たちによってもたらされ、多層多軸な食の文化圏が徐々に形成されつつあります。

なぜ加賀は飲食店の開業地に選ばれるのでしょうか。そのポテンシャルを「温泉街」「旬」「生産者」「工芸」という4つの切り口から紹介します。街中を観光しただけでは感じられない、地方のバックボーンをお伝えします。

 

開業地としてのポテンシャル⒈
温泉街という地の利

約1300年前に開湯した山代温泉の中心地には
明治時代の共同浴場を復元した「古総湯」が佇む。

わざわざ遠方から、料理を楽しむためだけに訪れる。温泉街は、そんな美食ツーリズムの可能性も秘めています。事実、冬には蟹を目当てとした観光客が訪れています。年間220万人以上もの観光客が訪れる加賀温泉郷は「山代」「山中」「片山津」「粟津」という4エリアの温泉観光地の総称です。この街には観光客と地元民が共存しているため、多くの飲食店が軒を連ねています。

なかには旅館従業員や地元民の間で評判となった繁盛店もあります。店の経営を軌道に乗せる上で念頭に置いておかなければならないのは、客層による「好み」の違い。たとえば飲食店利用者が観光客なのか、地元民なのかによっても、味の好みに傾向があります。それを意識していなければ、独りよがりな飲食店になりかねません。開業後のリスク回避のためにも、一度、その土地で働き、地域の嗜好性を分析することをオススメします。

 

開業地としてのポテンシャル⒉
伝統的な旬に基づいた料理

江戸時代に北海道と大阪を結ぶ商船によって栄えた橋立港。
一年を通して、旬の鮮魚が水揚げされる漁港でもある。
加賀市打越町の茶畑。江戸時代から歴史があり
大聖寺藩の産業振興として茶の栽培が始まった。

 

飲食店経営において、その土地の旬の食材を把握しておくことは極めて重要です。海や田畑や果樹園といった食材の供給源に恵まれた北陸地方には、どのような食材が流通しているのでしょうか。

たとえば、春にはタケノコやフキノトウや茶葉が芽吹き、収穫が始まります。やがて夏になると特産品であるトマト、ブドウ、ナシといった、みずみずしい青果が実ります。稲穂が首を垂れる秋には、サツマイモやレンコンといった加賀野菜も旬を迎えます。そして待ちに待った冬、日本海で獲れたカニやタラや寒ブリが水揚げされます。

しかし、旬を把握したとしても、食材の質は生産者や仕入れ先によって異なることもあります。料理にとことんこだわるのであれば、食材を提供してくれるパートナーの存在は欠かせません。

 

開業地としてのポテンシャル⒊
生産者との二人三脚

約1万5千本もの梨が植えられた加賀市奥谷町
漁場と港が近く、新鮮な海産物が水揚げされる橋立漁港。
底引き網、定置網、素潜りなど多様な漁が営まれている。

地方で創業することの利点の1つは、生産者が身近にいることです。「食材には生産者の人柄が反映される」と言われますが、実際に農場まで足を運ぶことによって、その野菜の個性を知り、そこから調理方法のヒントを得ることもできます。

さらに生産者との信頼関係を築くなかで、たとえば「鴨肉の野性味に合う、太くて甘いネギを作って下さい」とオーダーするほど食材にこだわる料理人もいます。こうした料理人と生産者のネットワークが、食文化の土壌を豊かにする肥やしの役割を果たしているのかもしれません。

農家、漁師、猟師、酒蔵などの生産者と料理人が二人三脚することによって、地域食材のポテンシャルが再発見され、新たな食文化が拓かれることに期待が高まります。

 

開業地としてのポテンシャル⒋
器で、もてなす美学

九谷焼の伝統技法「型打ち」によって製作中の平皿

食文化の豊かな地域では、器の文化も栄えています。古くから器の産地である加賀では、「山中漆器」と「九谷焼」という2種類の伝統工芸品が、食文化を縁の下から支えてきました。

山中漆器とは、木製の器に「漆」という特殊な樹液を塗ることで、堅牢な強度を持たせた工芸品です。漆には、湿気を取り込むことで硬化する性質があり、湿度の高いアジア圏特有の工芸文化です。艶やかな赤や黒などがベーシックなカラーで、加賀料理に品格を与えてくれます。

一方、九谷焼とは石を主原料とした焼物です。その特徴は、装飾性の高さ。「九谷五彩」と総称される黄、緑、群青、赤、紫の5色によって描かれた紋様を、窯で焼き付けるデザインが高く評価されています。その鮮やかな色合いが、料理を一層華やかに見せてくれます。

こうした工芸食器が、かつては5客、10客単位で販売され、料亭や家庭では客人をもてなすため、料理を彩りました。もてなしの美学が息づく産地だからこそ、料理人が器への審美眼を磨き上げ、食文化への造詣を深める環境に適しています。

 

温泉地の課題
空き店舗を活かす

レストラン等の開業が相次ぐ一方、空き店舗が散在していることも温泉地の事実です。商店街活性化の観点からも、空き店舗活用が喫緊の課題となっています。しかし現実には長期間使われていない店舗も珍しくありません。

内装はリニューアルできるため、壁や床の経年劣化は解決可能です。店舗選びにおいて重要なのは、建物の見た目以上に、人通りやロケーションといった容易に変えることのできない立地条件です。

温泉街を開業地としてオススメする理由は、地元民に加え、観光客の来店も期待できるという恵まれた立地条件にあります。そして、立地性というポテンシャルはメニュー開発や空間デザインによって、いかようにも拓かれます。

こうした創業者誘致と商店街活性を進めるため、加賀市定住促進協議会では移住ツアーの開催や店舗探しサポートを行っております。そのほか開業を準備する間に働ける飲食店もご紹介するなど多様なサポートをご用意しております。ぜひお気軽に、ご相談ください。

閑かな城下町に佇んでいた築130年の絹問屋を改装したGallery&Bar
工芸品などを展示した木造空間で、お酒を嗜める。

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