仕事さがしの前に、地域を知る。
温泉地で考える
福祉と湯治と観光のキャリア
温泉地である石川県加賀市には、医療・福祉に関する求人が100件以上あり(2022年3月時点)、介護士やケアマネージャーを募集している事業所も多く存在します。古くから温泉と健康が深く結びついているという地域性を知ることで、医療や福祉の専門スキルを活かした新たなキャリアアップを図れる可能性もあります。
また市内の事業所には、介護福祉士やケアマネージャーといった資格をもってない方でも働ける環境もあります。事業所を絞り込む際や、加賀市内の地域情報を得たいときには移住コーディネーターへお気軽にご相談下さい。
温泉と健康を結ぶ地域文化
3つの温泉観光地を有する石川県加賀市では、健康と温泉が古くから結び付いている様子が伺えます。地元民が日常的に利用している共同浴場の近辺には、薬王院温泉寺(山代温泉)や医王寺(山中温泉)などが建っています。こうした治癒・治療を連想させる寺の存在からも、温泉地に療養の役割を見出されてきたことが分かります。
古代日本では、温泉の効能や入浴作法といったヘルスリテラシーが仏教経典などにより伝えられ、やがて「湯治」と呼ばれる療養文化へと発展しました。病や傷、疲労を癒すことを目的に、温泉場で1~2週間ほど逗留する旅が、その具体例です。加賀地方にも武将や文人、船乗りなどが温泉地に滞在した歴史があります。
また加賀の温泉地に建つ寺社仏閣では、無病息災を祈願する行事も行われています。毎年6月4日には、市内の共同浴場で菖蒲湯が恒例となっており、古来から邪気を祓うと伝わる菖蒲の香りが、湯舟から立ち昇ります。こうした薬湯が祭礼と結びついている例が、山代温泉の「菖蒲湯祭り」です。威勢溢れる青年たちが約350㎏もの神輿を担ぎ、荒々しく街中を練り歩く様子は「暴れ神輿」とも呼ばれています。この日、薬王院温泉寺では護摩焚きにより夜空が煌々と照らされ、祭りのクライマックスには共同浴場の湯壺に菖蒲が投げ入れられるという勇壮な儀式が執り行われます。
湯治文化を拓く
福祉のキャリアアップ
菖蒲湯を始めとした入浴方法も、ヘルスリテラシーの一部と位置づけて精査することで、湯治文化の深化も期待できます。こうしたことに仕事として取り組めそうな職場に、医療・介護の現場が挙げられます。時間はかかるかもしれませんが、日々の業務と並行しながら、湯治文化にヒントを得た健康習慣を提唱していく仕事も、この加賀市では実践できるのではないでしょうか。
また温泉旅館も人々の健康と深い関係にある職場と捉えることができ、医療福祉の経験者が転職先として選ぶケースもあります。昨今、マッサージやエステなどを提供する宿泊施設も少なくありません。入浴方法に限らず、薬膳やスーパーフード、ヨガやエクササイズなども組み合わせることで美容・健康をテーマとしたサービスも実現します。このように旅行のなかで、健康増進や疾病予防を図る観光形態はヘルスツーリズムと呼ばれ、温泉療法や森林浴などのコンテンツが用意されます。
温泉地が湯治場としての特色を伸ばしていくためには、より専門的なヘルスリテラシーを有した人財が欠かせません。ある分野の健康情報に精通している人が旅館などに集まることで、温泉観光地における湯治場の機能も高まります。これらは、あくまでも一例に過ぎませんが、温泉と福祉と観光に新たな関係を見出す人財も求められてくるのではないでしょうか。
企業見学と地域巡りを並行した仕事探し
とはいえ湯治文化と福祉・観光を結び付けた仕事は、インターネットや既存の求人票からは見つけにくいかもしれません。しかし、そうした仕事が地域の中に全くないとも言い切れないため、別の方法で仕事を探す必要があります。
例えば実際に事業所を訪ねることにより、新たなチャレンジに意欲的な職場が見つかる可能性もあります。加賀市にはユニークな介護施設や温泉旅館が営まれており、そこで働いている人と実際に会ってみることで、企業風土などを肌で感じられ、自分との相性も推し量れます。
その際に、地域巡りも同時並行することをお勧めします。休日の過ごし方や、新しい働き方を探る上でも土地勘を掴んでおくことは重要です。温泉や食、自然や工芸などの地域資源を深掘りすることで、福祉やヘルスツーリズムに活かせそうなコンテンツを見つける機会にも繋がります。
移住に向け準備する段階では、就職の面接や住居探しと、何度も地域に通うことになります。そのための滞在拠点として加賀市ではお試し住宅を用意しております。最大6泊7日まで、無料でご利用できます。
また春夏秋冬と時期を変えて滞在することで、その時にしか出会えない季節性の地域資源も発見できます。後に紹介しますが、加賀市には温泉や地魚を活かした福祉施設があり、個々の施設が地域資源を取り入れたことによりオリジナリティが際立っています。
日常と自然を結ぶことで
特色を生み出す介護施設
⒈温泉に入浴できる福祉施設
複数の温泉に恵まれた石川県加賀市では、「総湯」と呼ばれる共同浴場が各温泉街のシンボルとなっています。朝方や夕方に総湯へと入っていく住民も多く、出勤前や退社後に立ち寄る、憩いの場としての役割も果たしています。
このように温泉が暮らしに根ざしているため、一部の介護施設では温泉浴場を設け、入所後も加賀らしい日常を享受できる環境を作っています。温泉には疲労回復、腰痛、冷え性、胃腸機能の低下などへの効能が期待できるため、リハビリや運動などと組み合わせることで相乗効果も見込めます。
こうした介護施設では、入所者に対して、温泉の効能を高める入浴方法などもヘルスリテラシーとして伝えることで、自主的に健康習慣を身に着けてもらえるようなサポートもできるかもしれません。
⒉海に近い福祉施設
漁港に近い介護施設では、日々の食事に日本海で獲れた鮮魚が供されることもあります。魚中心の食事と健康の関係は、数多くの研究で示されており、例えば魚の摂取量が多いと、認知症リスクが低くなる可能性が示唆されています。
DHAやEPAが豊富な青魚には、中性脂肪を下げる働きがあるため、血栓という血のかたまりができにくくなり、動脈硬化の予防にも繋がります。また高タンパク・低カロリーの白身魚には、筋肉を増加させる効果が期待でき、高齢者が自立した生活を送るうえで欠かせない筋力の低下を防ぐことに役立ちます。
加賀市では、ハタハタやメギスといった日本海の魚もよく水揚げされます。地魚の栄養と効能を理解することは、食養生にも繋がり、前述した温泉の効能とも組み合わせることで、湯治場らしいサービスへと磨き上げられる可能性も出てきます。
⒊家庭菜園のできる福祉施設
山間部や平野部で生まれ育ったお年寄りの中には、野菜などの栽培を通じて四季を満喫している方もいます。季節感を取り入れることで生活リズムにメリハリが生まれるため、家庭菜園をレクリエーションに組み込める介護施設もあります。熱中症や怪我などの対策が講じられた環境下の畑作業は、生きがいの溢れる運動にもなります。
⒋水景を眺望できる福祉施設
住民にとって馴染み深い風景を望める介護施設もあります。日本三霊山に数えられる「白山(標高2702m)」は市内の至るところから眺めることができます。晩秋から雪化粧する白山連峰を眺望できる場所の一つに「柴山潟」周辺が挙げられます。
柴山潟は加賀三湖に数えられ、1日に7回、色を変えることから「彩湖」とも言わます。その湖畔に佇む介護施設からは、白く輝く霊峰を眺められるだけでなく、夏の夜には湖上に打ちあがる花火観覧も満喫できます。
このように石川県加賀市の介護施設では様々な地域資源が活かされ、各施設の特色が際立っています。この他にも果樹園や植物、工芸や食、美術館や名建築、アートや生涯学習など組み合わせることで、多様な展開が期待できます。
こうした介護現場では、介護福祉士やケアマネージャーなどの求人が募集されています。その仕事内容には、入所者へのレクリエーションや行事、外出などを組み込むことも含まれます。地域を深く知ることは、利用者にとって必要なサービスを提供できることにも繋がるのではないでしょうか。
また介護福祉業界で培った知識やスキルを観光業で活かすという選択もあります。旅館と福祉施設は、食の提供や衛生管理、人と接する環境など類似する点も多く、応用できそうな場面も少なくありません。
加賀市には医療福祉・観光業などに携われる求人も数多く存在するため、新しい職場を見つけるのは難しいことではありません。重要となるのは、事業所の絞り込みです。自分にあった長く働ける職場や、キャリアアップを図れる環境を見つけ出すことが肝心となるため、企業見学なども行い、職場環境や働いている人の様子などを肌で感じておくことが判断材料にもなります。
まずは日頃から様々な求人情報に目を通している移住コーディネーターに相談することで、就職候補を絞り込める可能性もあります。気軽に情報収集できるオンライン移住相談も実施しているため、是非お問い合わせください。
県内や福井や富山といった近隣からの引っ越しを検討されている方からのご相談も承っております。
参考資料
石川理夫『温泉の日本史 ー 記紀の古湯、武将の隠し湯、温泉番付』(2018)中央公論社
日本食らしい食事に変えると認知症リスクが低下、東北大の研究グループ|Beyond Health|ビヨンドヘルス (nikkeibp.co.jp)