継業×移住で
あなたが輝く
第二の物語

赤い服の男性

山下ものづくりコンサルティングオフィス 代表
山下 公彦 Yamashita kimihiko

2020年7月に石川県加賀市に移住、現在は東京との2拠点居住をする山下さん。大手総合重工業メーカーを早期退職し、現在は町工場の社長として経営革新・商品開発を手がけている。また個人でも活動を邁進するなど、生まれ故郷でユニークなセカンドキャリアを歩んでいます。

「継業×移住」により新たな挑戦をする山下さんの、ドラマのような継業ストーリーを取材しました。早期退職に至る経緯、驚異的スピードで事業継承できた理由、また継業後に感じた地方での働き方についてご紹介します。50代以降のセカンドキャリアを考えている方、事業承継に関心ある方必見です。

(2021年11月インタビュー)

 

 

 

早期退職後は社長⁉
新たな挑戦と暮らし

早期退職制度を利用し、2020年6月に前職を退職。同年7月に(株)新家製作所あらいえせいさくしょの代表取締役に就任、事業承継を足掛かりとして石川県へ移住しました。現在は新たなビジョン【町工場のバルミューダ】を掲げ、会社の経営改革を進めています。

元々理系が得意で、大学院の研究室では材料工学を専攻、当時の新素材としてチタンを扱っていました。チタンといえば航空系。その流れで航空宇宙分野に強い(株)IHIのエンジニアとして就職しました。

20~30代は生産技術・製造・品質管理、40代は生産管理などの管理職として経験を積みました。今でも強く印象に残っているのは3.11(東日本大震災)の経験です。当時は生産管理部長として相馬市で被災しました。生産ストップした危機を乗り越えた経験は今も忘れられません。

その後は生産企画を担当して新生産拠点の立ち上げに携わり、そして早期退職に至りました。約30年のあいだで培った生産管理の専門性、そしてマネジメント力を活かし、経営者としてのキャリアを歩んでいます。

★山下さんが継業した「(株)新家製作所

産業用チェーンを中心とした、金属部品加工が強みの町工場。事業承継を経て経営権が山下さんに移り、現在は新たな方針の下で改革に取り組む。B to C 向け商品の第一号としてコーヒーミルの商品化準備中、詳しくは別記事「地方の町工場からメーカー脱皮への挑戦!石川県加賀市で培った金属加工技術を武器に『町工場のバルミューダ』となる。」からご覧ください。

 

その一方で『山下ものづくりコンサルティングオフィス』を設立し、主に地方の製造業のコンサルティングもしています。加賀市イノベーションセンター内にあるインキュベーションルーム(貸事務所)に入居し、同施設内の3Dプリンターなどを活用した商品開発にも取り組んでいます。

家族は自宅がある東京に居住し、私は東京ー石川県の2拠点居住をしています。ただし、今はコロナでほとんど東京には行かないため単身赴任のような状態ですね。加賀市では毎日温泉に入れるなどして、ストレスフリーな移住生活を満喫しています。

終身雇用が崩れ、副業が当たり前となった今、大企業などで経験を積んだ人のセカンドキャリアとして地方の中小企業を継業する、そんなモデルケースになれたらと思います。

インキュベーションルームとは?

石川県加賀市が提供する創業支援の1つ。加賀市イノベーションセンター3階に11室ある貸事務所。主に起業を目指す、もしくは起業してまもない法人が対象で、最長3年間の入居期間が設けられている。その間は賃料無料(共益費3,000円、実費相当額は入居者負担)。

 

 

セカンドキャリアを再考
「継業×移住」に出会う

継業・移住を検討したのは2019年の夏、ライフプランセミナーへの参加をきっかけに今後の生き方を再考しました。そこで湧いてきたのが「これまでの経験・スキルを社会に役立て、より社会的意義のあることをしたい」との想いでした。

とくに地元の小規模なものづくり会社を支えたい、そんな気持ちを強く持ちました。大企業にいたからこそ感じていた産業構造のゆがみから中小企業が割を食う現状を変えたい、そしてよい技術を未来に残す事業承継を支援できないかと考えました。

もう1つは両親の介護を考え始めていた時期で、ちょうど石川県に住む母親が入院していたんです。将来的には母親の近くに住むのがよいかなと思っていました。ちょうど早期退職制度が使えるタイミングだったので、石川県への移住を検討し始めた流れです。

赤い男性が黒いマスクをしている
Uターンする良いタイミングだったと語る山下さん

 

当初は起業を念頭に入れて情報収集に努めました。2019年10月末に事業承継・引継ぎ支援センターに訪問・登録、11月には移住フェア『いしかわUIターン大相談会』で石川県加賀市に相談、後日訪問して同市イノベーション推進課の担当者と意見交換をしました。

情報収集を重ねる中で事業承継・引継ぎ支援センターからいただいたお話が、奇遇にも石川県加賀市の(株)新家製作所でした。これは何かの縁だなと感じましたね。

事業承継・引継ぎ支援センターとは?

中小企業基盤整備機構が設置する公的相談窓口。親族内承継から第三者への継業など、中小企業の事業承継に関する相談対応を行う。

石川県ではISICO(石川県産業創出支援機構)のコンサルティング事業部が統括する「石川県事業承継・引継ぎ支援センター」が設置されている。

 

 

公的支援をうまく使い、
スピーディーな事業承継

通常は親族内承継でも丸3年程度はかかるところ、わずか9か月で(株)新家製作所の事業承継が実現できました。これは事業承継・引継ぎ支援センターのご尽力、(株)新家製作所の積極的なアプローチ、そして公的支援制度の活用の賜物です。

当時の状況は(株)新家製作所が経営者不在に直面、資金繰りも厳しく廃業の危機でした。そんな時に私が当該センターに登録し、コーディネーターがマッチングに尽力してくれました。奇跡的なタイミングでの登録だったのかもしれません。3者それぞれが事業承継に向け、最大限の努力をして実現したんですね。

赤い服を着た男性、スーツを着た男性
それぞれの協力で実現した「第三者事業承継」

出典:中小企業基盤整備機構「〈事例10〉株式会社新家製作所 第三者承継の事例紹介」より引用

 

この3者協力のストーリーも魅力的ですが、私がメディアに取り上げていただけるポイントは、個人が鉄工所を引き継いだからだと思います。通常は個人商店を継業することが多い中で、私のような事例は初めてだったようです。鉄工所を継業するのは規模が大きく、高いハードルがあります。そのため親族内承継も視野から外すことも稀でなく、良い技術を持ちながら廃業するなど技術そのものが消滅するケースはよくあります。

ではなぜ、私が高いハードルを越えられたのか。その理由は公的支援をフル活用したからなんです。東京都知事の認定を受けて日本政策金融公庫の『事業承継活性化支援資金』の活用、またこれまで第三者が事業承継する際にネックだった経営者の個人保証。これを外せる『事業承継特別保証制度』を石川県内第一号として利用しました。

事例紹介セミナーなどでお話する際に、なぜこんなに早く事業承継ができたのかとよく聞かれます。私のケースは奇跡的なタイミング、そして公的支援を活用したことで第三者事業承継が達成できたわけです。

 

 

事業継承の現実
中小企業の良さ厳しさ

奇跡的なタイミングと絶妙なマッチングにより、廃業寸前の町工場を救うことができ、また会社の経営革新に直接携わられることで、以前よりもダイレクトに社会貢献ができていると実感します。「八百屋の親父は何故元気なのか」ではないですが、社会貢献が一貫して目に見える、そんな仕事のあり方は好きですね。

赤い服の男性、マスクをしている男性

 

その一方、やはり製造業の中小企業は厳しい環境に置かれていると日々感じています。産業全体の課題で、付加価値の評価がアンバランスな産業構造の中、我々みたいな小さい会社は既存のビジネス以外に着手しなくてはならない、そのために色々動いた1年間でした。

あとは都心部の会社と比較すると、こちらでは協業して付加価値を作る動きが鈍いように思えます。せっかく良い技術があるだけに、今のカタチに合うように伝統を作りかえるためには、他社との協業から新たなものを作りだす必要性を感じます。当社が積極的に色んなプレーヤーを巻き込み、シナジーを起こして付加価値を作りたいと考えています。

また私個人の話ですが、事業承継のオンラインサロンの存在が心強かった。個人が会社を承継して経営するには、本を読むだけではなかなか難しいこともあります。オンラインサロンを活用すれば、全国で同じ課題を持つ方々と繋がったり、情報交換したりすることで、新たな知見や刺激をもらっています。今は地方にいてもこのような機会を得られるので、移住のハードルは下がっていますね。

 

 

あなたが活きるところで生きる
セカンドキャリアとしての「継業×移住」

せっかく優秀なのに、その能力を1割しか使わずに働くサラリーマンはたくさんいます。そういった人が小さい会社を継業して能力を遺憾なく発揮する、そんなセカンドキャリアも悪くないと思います。

実際に当社が開発中の「コーヒーミル」は、私が前職で航空機エンジンを扱っていたこと、そして前職の仲間とのご縁から生まれたアイデアでした。これまでのネットワーク、そして経験やスキルを他分野で活かすことは十分に考えられます。

コーヒーミル
現在手掛けるB to C商品「コーヒーミル」

 

その一方で、中小企業の経営者に方々に希望を捨てないでと伝えたい。私みたいなことが起きる可能性があります。せっかくよい技術があっても経営者不足で廃業するケースはたくさんありますが、まずは公的支援制度を活用するなど検討し、第三者事業承継の可能性も考えてみてください。

早期退職後のセカンドキャリアとして「継業×移住モデル」が広がっていくと面白いですね。これまであなたが培ってきた経験・スキルが活かせる場は、実は地方の中小企業に眠っているかもしれません。

 

 

 

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ツアーをしている様子

事業承継をイメージする移住体験ツアー

事業所 山下ものづくりコンサルティングオフィス
オフィス 加賀市イノベーションセンター インキュベーションルーム
住所 石川県加賀市大聖寺八間道65(加賀交流プラザさくら3階)