なぜ加賀市には
日本各地から
木地師の卵が集まるのか
石川県加賀市は伝統工芸が息づく温泉地。なかでも山中漆器は、約1300名もの従事者が携わる産業で、その技法を継承したいという人が後を絶えません。日本の漆器産地は約30地域ほど存在しますが、石川県挽物轆轤技術研修所は全国で唯一「木を挽く技術」や「漆を塗る技術」、「金で飾る技術」などの漆椀づくりを総合的に学べる施設です。
この地で約400年間培われてきた伝統技法を、2~4年に凝縮して学べるカリキュラムが組まれており、日本全国から集まった研修生は通算105名(2020年9月時点)。平成9年4月1日の開設以来、多くの人に漆器技術を伝えてきました。
そのうち約7割の研修生は石川県外からの移住者です。漆芸や木製品、食器デザインなどに関心のある方が、加賀に住みながら技術を磨いています。このように日本各地から人材を惹きつけるカリキュラム、講師陣、設備などについて取材しました。
堅牢な木を挽き
うるしの樹液で
美しくもたせる技
石川県挽物轆轤技術研修所には、美しく堅牢な漆器づくりを習得するためのカリキュラムが用意されています。漆器の原木となるケヤキ、サクラ、ミズメなどの丈夫な木を削り、そこにウルシの樹液を塗り固めることで、頑丈で艶やかな器が生まれます。
しかし、木工品であるがゆえに湿度の影響を受けやすく、歪みが生じることもあります。湿気を吸収・放出する過程で、膨張と収縮を繰り返し変形するのは、木が呼吸していると言われる所以です。お椀などを反りにくい製品にするため、形状デザインや木取り、乾燥や塗装などの工程において、様々な職人技が凝らされています。
たとえば「竪木取(たてきどり)」と呼ばれる独自手法が山中漆器では培われてきました。木が育つ方向に逆らわずに加工することで、歪みを抑える技です。こうした技術を有する「木地師(きじし)」の手がけた漆器が高く評価され、日本各地に販路が拓かれています。
熟練職人も講師
生きた伝統を継ぐ
研修所では約30名の講師陣から指導を受けられます。轆轤挽きや漆塗り、加飾挽きに蒔絵、商品企画と製品デザインなど、それぞれの専門分野に特化した講師から教わる機会が設けられています。市内に工房を構える職人が技を実演することも度々あります。研修コースの定員は5名。少人数制のため、伝統技法の修得に打ち込めます。
2種類あるカリキュラムのうち、未経験者も受講できる基礎コース(2年間)では、漆器の代表的製品である椀や盆を挽く技術や、そこに漆を拭きあげる方法などを習います。轆轤や上塗室などの設備が整った環境で、週5日集中して学び、漆器づくり基本となる技法を磨きます。
専門コース(2年間)に進級すると、週2日の実技演習などに加え、地元職人の工房に通えるようになります。プロの仕事場で修業を積むことによって、多くの製品を速く、正確に挽く実力が鍛えられるほか、熟練技を見て盗むという機会にも恵まれています。
速く美しい
仕事を支える
道具と技術
木地師の手際よい仕事を支えているのが、カンナという刃物です。その刃先を椀などに当てると、轆轤の回転と相まって、表面が切れ、またたく間に滑らかな木目が現れます。
カンナは鍛冶場で金槌を握り、鋼材を打ち鍛えた、丹精込めた手作りの道具です。刃の切れ味が鋭く、丈夫なカンナは、効率に差を生み出します。切れ味が鈍くなると仕事も遅れるため、刃先が摩耗する度に、研ぎなおします。
そうして研いだカンナを、絶妙な加減で勢いよく回転する木地に当てます。その一瞬の動作によって、刃先の耐久性を高められるか、仕事を速く仕上げられるかといった力量が問われます。鉋の握り方、刃の角度、力のかけ方などは、場数をこなして得られる手ごたえ。1ロット50~100個という木地を何種類も挽くなかで気が付くことです。
こうした修業経験を、研修所の卒業後も、職人の工房で積み重ねていきます。技術を身につけ、自分の工房を構える木地師もいます。このように独立を志す職人には、資金面から支援する制度も設けられています。たとえば加賀市では工房を開設する際の借上費や設備投資に関する助成金を受けられます。
研修から独立までを支援している加賀市で、漆器づくりを学びませんか。
オープンキャンパスと漆器体験
山中漆器産業技術センターでは、見学や木地挽轆轤体験の予約もでき、入学について相談する機会としてご活用下さい。漆には肌をかぶれさせる成分が含まれており、人によっては作業場にいるだけで痒みが生じることもあります。入学前に見学や体験を通して、漆への耐性を確かめておくと安心です。
その際、市内にあるお試し住宅を拠点に最大1週間まで滞在頂けます。併せてご活用下さい。
アクセス情報
施設名 | 石川県立山中漆器産業技術センター(石川県挽物轆轤技術研修所) |
住所 | 〒922-0111 石川県加賀市山中温泉塚谷町イ270番地 |
駐車場 | あり |
電話番号 | 0761‐78‐1696 |
公式サイト | http://yamanaka696.org/ |