十八代続く老舗旅館で
おもてなしの心を学ぶ
歴代大聖寺藩主が通った宿

代表 永井 隆幸さん
女将 永井 朝子さん
加賀は食材と伝統文化に恵まれた温泉地。北陸新幹線の金沢開業で、首都圏や海外の顧客も増える中、新たなニーズに合わせたサービスを展開すると同時に、職場環境改善のため定休日を導入するなど、スタッフの負担軽減にも取り組んでいます。 接客や料理について学びたい方をお待ちしております。外国語のできる方も歓迎です。

 

伝統が息づく加賀の文化的奥深さ

山代温泉の湯元にあり、18代を数える老舗温泉旅館です。現在は全18室、比較的小規模なお宿ですが、私が旅館の仕事を継ぐために都会から戻ってきた頃の当宿は、今より収容人数も多く、いわばどこにでもあるような高級旅館でした。

しかし、全国各地にある温泉地の中でも、ここ加賀ほど歴史や伝統工芸、芸術文化が揃っているところは、極めて珍しいのです。せっかくのそんな加賀の貴重な文化をもっと生かしたいと思い、伝統工芸である九谷焼や山中漆器の作家を訪ねてオリジナルの器を作成してもらって普段から使用したり、また当宿ゆかりの芸術家・北大路魯山人の作品も数が少なく珍しいものですが、ロビーや客室などお客様の目に触れる場所に意識的に飾っています。

 

宿の個性がふと感じられるしつらえで

伝統を守りつつも、現代の工芸や芸術も取り入れ、お客様に喜んでもらえる宿づくりをしたいと考えています。部屋の改装も、何年もかけて少しずつ重ねています。

全国の様々な旅館を訪ねると、「ここの主は山登りが好きなんだな」「魚釣りが好きなんだな」と、宿のカラーを感じるものです。宿主の考え方を、宿づくりとして表現していきたい。前面に押し出すわけではなく、お料理やお部屋などで、宿の個性をふと感じていただけるしつらえを目指しています。

 

旅館業の重労働イメージを変えたい

従来、温泉旅館の仕事というと365日長時間労働のとても大変な仕事、という「イメージ」がありました。特に地元の方は昔からのイメージが払拭されず、ご自分の子どもが旅館の仕事に就くことをよく思わない親御さんも多いと聞きます。近年、多くの温泉旅館が人材不足に悩まされている現状の中、働く側の認識が変わるのをただ待つのではなく、我々企業側の体制を大きく変えていかなければならない時期に来ていると感じています。 若い人が働きたいと思える仕事にするには、旅館業のイメージそのものを全体的に変えていく必要があります。

 

担当業務の役割分担を合理化

まず、客室係スタッフの負担軽減のため、2014年から一部業務をバックヤードスタッフでまかなうことにしました。お客様の前でいつでも凛としていなければならない客室係が、雑務に追われてクタクタの状態では良くありません。お客様が直に手に触れ、目に触れるものだけは客室係スタッフに責任をもって準備してもらい、お布団の上げ下げや客室の掃除、洗濯などは全てバックヤードで行います。チェックインのご案内も、早い時間帯は客室係でないスタッフが担当します。長時間労働が緩和され、長めの中抜け休憩を利用して、以前よりゆっくりと体を休められるようになりました。

 

働きやすい職場への改革

さらに私どもは、温泉旅館としては異例の「定休日導入」に踏み込みました。一般的な会社員には週末の休日があり、飲食店等の営業店にも定休日がある中、旅館だけが365日営業してきました。

客室係は中抜けの休憩時間こそありますが、毎日朝早くから夜遅くまで、オーナーにもお客様にも神経を使ってきました。これでは大変な労働です。調理場のスタッフも、タイムカードが真っ黒になるほど働いていました。料理長や女将など、管理職の負担は特に大きいものです。

定休日の導入は、企業として大きな決断でしたが、スタッフみんなの悲願でもありました。2016年4月から、週に一日全館休業の日を設けています。決まった休みが週に1回でもあると思えるだけで、同じ労働でも疲労の感じ方が変わってきます。ただし、宿泊業は夜から朝にかけての仕事ですので、1晩の休業だけでは丸1日休めないというのが現状です。関東の先進的な旅館では、週2日の定休日を実現しています。

 

おもてなし研修で
スタッフ同士の連帯感も

また、士気を高めるために、おもてなしの研修を年4回、東京から講師を招いて行っています。これは全体ミーティングも兼ねたもので、スタッフの連帯感を強める場にもなっています。小さな旅館でも、部署や時間が違えば顔を合わせることは少ないです。

スタッフ全員が集まる機会があることで、ふとした時や困っている時に声を掛け合えるようになりました。

 

新しい顧客層に向けたサービスへ

北陸新幹線が東京から金沢まで開業した影響で、売り上げは伸びています。今までは交通の便が悪くてなかなか来られなかった首都圏や、海外のお客様が増えました。

これからは、多様化するお客様のニーズに対応したサービスを提供していかなければいけません。2015年には、100畳の広間を細かく分けて、個室のダイニングに改装しました。お部屋食も残しながら、ダイニングでのお食事を選ぶこともできるようにしました。

 

外国語でのおもてなしも急務

また、海外のお客様が増える中で、英語を話せるスタッフの必要性を感じています。お食事の席でも、英語のメニューを置いて簡単に説明するだけでは味気がない。リピーターになっていただくには、細かいコミュニケーションで深く関わりを持つことが重要です。

先日、とあるアメリカ人の年配のご夫妻がいらした際、ロビーの椅子に座り、雨がしとしとと降る中庭を眺めていらっしゃいました。女将が「まるで映画のワンシーンのように素敵なご夫妻ですね。」と英語で声をかけると、奥様が「The end.」(私たちの生涯はもうすぐ終わりよ?)と映画にかけた冗談をおっしゃって、一緒に大笑いしたそうです。チェックアウトの瞬間まで大変喜んでくださっていました。そんな他愛のない会話まで、大切にしたいのです。

客室係全員が完璧な説明や会話をすることは難しいと思いますが、基本的なご挨拶やご案内などは話せるようにしていきたいと考えています。

 

向学心のある方に来てほしい

料理や接客を学びたい、そんな向学心を持った方に来ていただきたい。以前、山中漆器の研修所に通う方が当宿の器のこだわりを聞き、少しでも漆器の勉強になればとアルバイトでお皿洗いなどに入ってくれました。なぜここで働きたいと思ってくれたのかを知った上で、仕事を通してどんな自分に成長したいのか、そこまで踏み込んで話していきたい。また、将来民宿や旅館を開くために経営を学びたい方も受け入れたいと思っています。

私自身、働き始めの頃は分からないことばかりで、諸先輩方から多くのことを教えていただきました。そのご恩を返すだけではなく「恩送り」として、若い世代に伝えていくことも大切なことだと感じています。

 

「暮らしたい」まちは、「訪れたい」魅力的なまち

従業員は現在38名ほどで、約半数が正社員です。県外出身の方がほとんどで、調理部スタッフは、東京、長野、愛知、大分、福岡などから来ています。現在18室のお部屋に対し、客室係は8名。少ない人数ではありませんが、今後、さらに少し人数に余裕を持たせたいと思っています。

仕事内容も大事ですが、遠方から働きに来る方にとっては、暮らしの魅力も大切なこと。住んでみて「暮らしたいまち」が「訪れたいまち」になるように、まちの魅力を増やす取り組みも続けていきたいと考えています。

古総湯と呼ばれる共同浴場の隣に
あらや滔々庵は宿を構えている。

 

事業所データ
企業名:合資会社あらや
代表者:代表 永井隆幸
所在地:〒922-0242 石川県加賀市山代温泉18-119
連絡先:TEL 0761-77-0010(代) /FAX 0761-77-0008
WEB:http://araya-totoan.com/