溢れる湯量が老舗旅館の格式を物語る、山中温泉の宿。
渓流を活かした露天風呂で宿泊客を癒す

常務取締役 田向公一さん
創業800年、名勝・鶴仙渓を望む宿。伝統と格式を誇りながら、一方ではユニバーサルデザイン採用で車いすのまま浴室に入れる貸切大浴場を全国でもいち早く導入する等、新規性の高いサービス提供にも取り組み続けています。
注目の温泉地・山中温泉で、旅館の仕事の魅力を感じてみませんか。
(ヒアリング訪問日:2016.12. 19)

 

旅館は人手不足

旅館は、日本全国で人手不足ですから条件が良い所じゃないと人は来ない。そして、やりがいがあるかどうか。旅館の仕事は働きがいを見出せる仕事です。そういうことが好きな人は全国に居ると思いますから、来てもらえるようなPRをしないといけないでしょうね。

山中温泉には旅館が19件あります。旅館数も減少しましたが、それよりも従業員が減っています。たわらやにも以前は接待さんが約40人いましたが、今は15~16人です。

 

地元では昔のイメージを今もひきずる

忙しいのは朝食時と夕食時、そして土日という仕事ですから、好きじゃないとやれない仕事ではありますね。サービス業の最たるものでしょう。

人と関わるのが好きな人にはおすすめの仕事ですが、なぜか地元の人は、人・サービスが好きでも旅館で働かない傾向にあります。ところが金沢のホテルでは働く。温泉旅館ももっと工夫して、働く人に魅力を発信できるようにならないといけませんね。

 

お客様担当はなく役割分担する

お客様に担当が付くという方法はなくし、お出迎えしてお茶を出す人と料理を出す人は別になっています。効率的になり、時間細切れで3時間だけ働きたい人などにも働きやすくなっています。

そのお茶も、部屋ではなくロビーでお出しします。昔だったら部屋でお茶を出してくれて浴衣も着せてくれて、料理も部屋まで持ってきてくれた。それを知る年配のかたにとっては、「昔に比べてサービス落ちたね」って言われかねない変化ですが、いまの時代としてはむしろそのほうが喜ばれることが多い。

スタッフがチップや心付けをお客様からいただくことは今でもたまにありますが、それは本人が貰うようになっています。

 

旅館は総合サービス業

旅館は「命を預かる商売」です。レストランなどいろいろなサービス業がある中で、泊まって、風呂まで入ってもらい、食事も全部お出しして、衣食住そろった世界に一泊していただく。よかったら、ものすごく感動してもらえます。やりがいはものすごくあります。人とふれあい、お客さんに何かして喜んでもらいたいという仕事です。

山中温泉の旅館の仕事は、お昼のテレビドラマシリーズにもなったことがあります。走り回って、泣き笑って、真剣にやれば実際にドラマが生まれます。お客さんもいろんな人が来て、喜んでもらったらまた来てもらえる。「また来ました」と、何十回来る方もいます。

 

地域の魅力を感じてもらうサービスを工夫

地域の魅力を伝え、喜んでもらうサービスも進めています。夏は釣りの道具をお貸ししたり、夏休みに昆虫採集ができる地元の地図を作っていたり、さらに、こどもビンゴ大会、餅つきなどの催しもやります。
働く人が、自分のまちの良い所を伝えて、「うちのまち、良い所でしょ?」って言える、誇れる商売です。これも励みになるのではないかと思います。

地域の魅力の発信としては、組合で行っているスイーツめぐりがあります。それにプラス、うち独自でまちの飲食店さんスイーツ屋さんに話をして、「これを持っていると、この3軒の店ではちょっとお安く食べられますよ」ということもしています。旅館の中から町にお客さんを出すので、町の人にも喜んでもらえます。昔の旅館の立派なお庭を見ながら、座ってゆっくりお茶を飲んだりできる、お茶付きのプランなど、地域の施設を使いながらそれぞれ独自でやっています。

 

ユニバーサルデザインの貸切大浴場

当館にはユニバーサルデザインの貸切大浴場がありますが、これは全国でも珍しい。大浴場を貸し切れること自体が珍しいです。貸切料もそう高くないので、家族が車いすのかたを温泉に入れてあげたいと考えて、探して来られることが多いです。

 

たっぷり溢れる湯量の豊富さが当館の特徴

当館の最大の特徴のひとつが、温泉の湯量の豊富さです。山中温泉では何本か源泉を掘っています。共同浴場「菊の湯」(総湯)の下にも、3号源泉や10号源泉があります。芭蕉の館の駐車場裏にも11号源泉が出ています。それらをいったんぜんぶ「菊の湯」の下にある配湯所に集めて、そこから各旅館に送ります。

山中温泉の場合は、これを財産区で管理しています。全国の歴史を見ても、温泉地の喧嘩の火種はみんな温泉の争い。それに終止符を打つために公のものにし、その代わりもとは独自で源泉を持っていたような旅館は、ある程度優先権を持たせています。湯量に関しては、歴史的貢献度によって決まるといっていいでしょう。

当館ともう1館が一番多くて、600石の配湯です。600石というと、1分間に90リットルの温泉が来続けるようなものです。浴槽から溢れた分は、全部流れていきます。大浴場2つと、露天風呂、あと貸切風呂があります。露天風呂も大きくしています。ただ、当館の場合は夏の時期に、そのままでは熱くて入れない時に、湯温を冷ますために加水することはあります。これは量が足りないのではなくて冷ますためです。基本的には100%源泉です。

 

地域同士協力して高め合うのが温泉場

旅館の場合、一軒一軒の魅力もさることながら、地域としての魅力も大事です。草津へ行こうか、別府へ行こうか、といった中で、山中温泉ということでお客さんは来るんですよね。山中温泉は先日の「温泉総選挙」女子旅部門で、全国2位に選んでいただきました。

温泉観光地づくりは、地元の人じゃないとできません。温泉旅館組合はライバル同士でもありますが、お互いに足を引っ張りあってお客さんを取り合っていたりしたら成り立たない。そういう意味では仲良く協力し、お互いに紹介し合うくらいの感じでやらないとできない。

 

山中芸妓さんも募集中

うちのスタッフではありませんが、山中温泉としては芸妓さんになりたいという方にも来てほしい。昔は山中温泉に200人いたこともあったのに、今は7人しかいません。若い方は2人しかおらず、その方たちはアルバイトもしています。あとは年金を貰っている年齢です。給与は月給制ではなく、仕事した分です。山中座で定期上演がありますが、月に2回なので8~9万にしかならず、あとはお座敷です。

最近は旅館のお座敷に呼ばれて芸を15~30分見せる、見てもらうだけというお座敷が結構あります。2人呼んで15分踊ってもらい、お座敷料が1万4000~5000円くらい。ちなみに、いまご祝儀が2万5千円~としています。分かりやすさを考えて、ここ数年でそんな風にしました。何人か集まれば十分可能と思える金額です。
芸をきっちり身に付けて、芸能を披露するという形で充分できる仕事だと思います。なにより、山中温泉の歴史がぜんぶもらえる仕事だといえます。

最近は、親御さんの還暦旅行や退職祝いといったプレゼント旅行のサプライズとして呼ばれることも結構あるそうです。地方(じかた)と踊り2名でお座敷に伺って、その方のためにご祝儀の舞いを2曲くらい舞ってくれます。最後に花束贈呈と、一緒に写真を撮って記念にしていただいています。

 

新卒採用者にも働きやすい職場へ

弊社の求人については、地元の高校に説明に行き、その一環で全国にも出しました。初めて山形の高校を出た新卒の方が平成29年4月から入社しました。親御さんからも、ぜひお願いしますと言っていただき、部屋も用意しました。ほとんど家賃もかからず、温泉は入り放題です。

スタッフの業務の効率化も図りながら、お客様に満足度の高いサービスを提供していけるよう、一緒に工夫していける方に来ていただきたいですね。今後も、新卒の採用は行っていきます。

 

事業所データ
企業名:白鷺湯たわらや
代表者:代表取締役
所在地:〒922-0114 石川県加賀市山中温泉東町2丁目ヘ-1
連絡先:TEL 0761-78-1321  FAX 0761-78-2518
WEB: http://www.tawaraya.co.jp