漁師は健康な心で働ける仕事
船上作業を改革し、魚の鮮度アップを実現した定置網会社。
網元 窪川 敏治さん
漁業界で新たな仕事の仕方を追求する定置網会社。お客様目線からの発想で、水揚げの仕方や魚の鮮度維持のための方法を模索。改革着手から5年以上が経過し、市場での評価も高まっている。網元は、東京での塾講師を経て、加賀の漁港で網元になったという異色の経歴。
従来の方法を見直し、市場での評価アップを実現
とかく保守的になりがちな漁業界ですが、新たな仕事の仕方を追求しています。お客様目線からの発想で、魚の扱い方や鮮度維持のための方法を模索し、5~6年でやり方を一気に変えてきました。手間をかけることにより、価値を高められます。たとえば、氷水を事前に用意しておき、魚を水揚げしてすぐに氷水に入れます。
そもそも、定置網であげる魚は鮮度が良いんです。定置の漁は何日も出ずっぱりじゃない。ちょっと行って水揚げして、すぐ帰るんですから、魚はどれも新鮮です。少しの手間で品質をさらに上げることができます。それに手間と言っても、最初からその方法で入る若い人たちにとっては抵抗もありません。
時には古参の面々と大声でとことん議論もしましたが、魚の評価は確実に高まっており、「金城丸の魚はよくなったね」と言ってもらえるようになりました。もし陸揚げが少し遅れそうな時でも、予め電話で連絡しておけば待ってくれるという信頼関係もできました。
子どもの学校行事にも参加しやすい働き方
魚が沢山入った時は、一旦早めに戻り、陸揚げして、他の市場に運びます。金沢側で同じような魚が多く獲れている場合は福井側に持ってゆき、反対の場合は金沢や氷見に送ります。船上でそうした判断をするのは網元である私の仕事。輸送トラックの手配等も船の上で済ませます。
市場には休みがありますが、魚は毎日獲り続けています。しかし、スタッフは自分や家族の都合で休みが取れるようにしています。子どもが熱を出したとか、学校行事への参加もしやすくしています。いつでも休めると思うと、一生懸命仕事してくれます。仕事の日も、夜中に働いているので、朝8時に帰港してからはフレキシブルに動けます。
漁が休みの冬場は、連続20日超の長期休暇も
冬場の12月から3月は定置網を引き上げてしまうので、漁はありません。網や道具のメンテナンスをします。その時期は、朝集まって夕方帰る生活です。また、うちでは12月25日頃から1月20日までの1か月間弱を休暇にしています。
大人なのにこんな長期の休みが毎年あるって、日本では珍しいですよね。メリハリのきいた働き方をしてもらっています。
経営者は、「仕事大好き人間は少ない」という前提を持とう
昔ながらの漁師のイメージって、「海が好き、船が好き、魚が大好き」で、仕事のためなら家族のことは顧みない“海の男”でした。しかし今の時代にそんな仕事のしかたは合いません。
どんな仕事も、前提が「この仕事が好きだから働く」しかないと、しんどくなります。「仕事なんてしたくないのだけど」という前提で、いかに気分良く働けるようにするかを考えることが大事で、それを考えるのが経営者の役割だと思います。仕事のために生きているという人は少ない。そうでない人も、いかに気分良く仕事ができるようにするかを考えています。
若い漁業者が増えた。世代交流が進む
私が船に乗り始めた最初の頃は、経験豊富な乗組員が多く、殺伐とした雰囲気もありましたが、今は変わってきています。昔ながらのやり方を変えたがらない面が強くありましたが、ぶつかりながらも変えてきました。
会社は若いスタッフが着実に増え、世代交代が進んでいます。都会から来た大卒の乗組員もいるし、高卒の新人も複数入り、いま会社の平均年齢は40歳ほどです。
少し前までは、この地域で漁業に従事している人は地元の中学や高校を出てすぐこの世界に入った人が圧倒的に多かった。これからは、違う勉強をしてきた外の人間が入ることで、これまでとは異なることもできるのではないかと思います。
移住して困ったことは言葉
私自身が移住してきて一番困ったことは、言葉です。港の仕事では方言が飛び交います。一つのセンテンスの中に分からない言葉が3つあると、もう理解できません。詳しく説明してくれないので、最初は困りました。方言が強くて何の指示をされたのか分からない時まで、言われたこともちゃんとできないと誤解されてしまうんです。特に年配の方々は、分らなければ分からない者の責任という発想が強かったので、分かるように説明することの必要性を説いています。
今は若い人たちも増えて、何を言っているか分からない時は、回りがみんな「?」という感じになるので、この言い方じゃあダメなんだな、と思うようです。雰囲気が大きく変わりました。
漁師はストレスレスな働き方ができる仕事
漁師は、心が健康なままできる仕事だと感じています。なぜなら、定置網で魚が入るかどうかは魚任せ。待つしかないんです。組織内での営業成績グラフの競い合いみたいなのもないし、競争相手というより、一緒に力を合わせて仕事をする仲間同士という意識が強いです。
漁業は重労働で身体がきついというイメージがあるでしょうが、多くの作業は機械がやってくれるので、もはや重労働でもない。漁法の中でも定置網の場合は、船に乗っている時間も短いです。あとは、船酔いは人によって違いますね。この仕事に興味があるなら試してみたらよいと思います。
新たな定置網も入れる予定なので、新たな人財を募集しています。
<事業所データ>
有限会社 金城水産
代表者:網元 窪川 敏治
所在地:〒922-0553 石川県加賀市小塩町大野山2-1
連絡先:TEL.0761-75-1021、漁協TEL.0761-75-1111
事業内容:漁業(定置網)