旅の目的地に選ばれる寿司屋を開業するために、日本海と温泉地と工芸を学ぶ移住体験。

石川県加賀市は3つの温泉観光地を有し、旅館が集まるこの地域一帯が「加賀温泉郷」と呼ばれています。この地域で開業することの魅力は、地元民と宿泊客をターゲットにできる点です。

もう一つの利点として、日本海から豊富な鮮魚が水揚げされていることも見逃せません。それゆえ海の幸を味わえる寿司屋や割烹なども複数あります。

さらに温泉地らしい風土としては、旅館の板前が独立して開業するケースも見受けられます。しかしながら寿司職人や板前などの高齢化により、担い手のいない店舗では、惜しまれつつも廃業せざるを得なかった事例もありました。そのため地域住民のなかには、新たな寿司屋を待ち望む声もあります。

温泉地であるがゆえに、新しい飲食店も観光拠点となるチャンスを秘めています。それどころか、「自慢の料理」を旅の目玉商品とすることさえも可能なのではないでしょうか。

この記事では、開業候補地を探している方のために「海産物・温泉地・工芸」という3つの視点から石川県加賀市という場所についてお伝えします。現地滞在をご希望の方には、移住体験のご予約も承っています。

日本海の鮮魚が、旅の主力商品となる。

日本海の鮮魚は、それを食べることが旅の目的のひとつになり得ます。例えば冬の冷たい海から水揚げされるカニやブリは、観光客の食欲をそそる名物です。それゆえ寿司屋などの海鮮料理店は、観光拠点としての役割も担っています。そこから派生する経済効果として、漁師や鮮魚店、建築会社や工芸職人の仕事に結び付くことも考えられ、食文化の振興は極めて重要です。

豊富な魚介類の一部をご紹介するとズワイガニ、コウバコガニ、ブリ、アンコウ、タラ、カキ、ノドグロ、ハタハタ、メギス、甘エビ、ガスエビ、タイ、カマス、アワビ、サザエなどが挙げられます。これらは北陸の海岸線に連なる多くの漁港から、季節ごとに運ばれてきます。何十種類もの海の生き物たちは、食文化の豊かさを生み出します。

このように地域の人が食べ慣れた日本海の地魚は、太平洋側や内陸部に住んでいる人々にとっては珍しい魚介類である可能性が高いのです。それらをより美味しく調理することによって、地域住民も観光客も呼び込む目玉商品を作れるかもしれません。

そのためにも観光客が「わざわざ足を運んでも食べたい北陸の海鮮」という強力な資源を、活かしたい人財を地域内に増やしたいと思っています。

私たちは移住コーディネーターとして町の案内も行っています。移住検討者さんと一緒に鮮魚店などを訪ね、どのような魚が獲れ、どのように料理されているのか、という紹介もしています。

宿と生活圏と自然が一体となっている地域

この地域では自然の中に温泉街が溶け込んでおり、町を歩いているうちに渓谷や潟湖、山林に抜け出ることは珍しくありません。このように生活空間と自然が隣り合わせとなった景観が、観光客や移住者を惹きつける魅力のひとつとなっています。

景観は、旅全体の満足度を高める武器になります。こうした自然に惚れ込んで移住する人もいます。

ただし気を付けなければいけないこともあります。店舗探しの段階で、海や潟が見渡せるロケーション、森に囲まれたような環境、築100年の古民家など理想が高すぎると物件がなかなか見つからずに、時間だけが過ぎてしまうこともあります。

自然環境や伝統建築などについては「周辺観光で楽しんでもらい、旅全体の満足度を高める」と割り切って、候補物件を探すことも考え方の1つです。

物件探しをサポートするため、移住コーディネーターは地域の不動産会社を紹介することもあります。

料理をアートに変える工芸の力

器は料理に欠かすことのできない武器です。石川県加賀市が山中漆器と九谷焼という2つの工芸品の産地であるという事実は、料理のクオリティを高める際に大きな助けとなります。近隣に多くの工芸職人が住んでいることによって、入手できる器のレパートリーも豊富になっています。

その歴史・文化を学べる場所としては、美術館などの公共施設が挙げられ、誰もが気軽に訪れることのできる開かれた場です。石川県九谷焼美術館、九谷焼窯跡展示館、石川県挽物轆轤研修所の運営には地域の職人・作家も関わっており、作り手の話を移住希望者さんに聞いてもらう機会を作ったこともありました。こうした交流支援も移住サポートには欠かせないと考えています。

器に料理を盛り付ける、というごく単純な営みのなかにも芸術があり、食をアートに変えることで、付加価値をを高められのではないでしょうか。

茶道や華道、建築などの生活文化の至る所に、芸術が根ざしている石川県加賀市は、その特色が観光産業にも滲み出ています。温泉地×食×工芸という方程式によって、料理を芸術に変えることができれば、それは旅人も地元民も誘客できる強力なコンテンツへと磨かれていくかもしれません。