お客様、環境、従業員に、やさしいバネ工場
幾度もの改革を経て残業ゼロの企業へ

代表取締役社長 吉田 孝之(よした たかゆき)さん
お客様が作りたい「ばね」を1本からでも発注いただける、多品種・小ロットの「ばね」づくりをしています。「ばね」は様々な場面で活躍しています。当社製品も、繊維、食品、建機、工作機械、医療機器、車両関係など他分野に納めています。
顧客満足度、環境保全、労働環境の改善に力を入れており、平成27年10月には、「安全衛生優良企業」(厚生労働省)に国内6社目(石川県内では初)の早さで認定いただきました。
ワークライフバランスに優れた生産性の高い職場で、独自の技術を身に付けて働きませんか。

 

加賀市での創業からのあゆみ

創業は昭和33年。加賀市内の山代温泉の町中に立地する小さな町工場でした。当時は、ばねを生産する専用機械はなく、鉄板に穴を開けるボール盤という機械に金属の丸棒を固定し、その棒にばね線をぐるぐると巻き付けて作っていました。

ばねというと自動車製造で使われることが多いのですが、石川県はあまり自動車製造が盛んではなかったため、弊社の製品は、主に繊維機械や工作機械などで使われていました。当時のお客様は、加賀市や小松市など地元が中心でした。

 

多品種・小ロットへの一大転換

現在は加賀市加茂町に工場を置いています。今も創業時から変わらず、ばねを作り続けていますが、事業形態は大きく変わりました。まず、「少品種・多ロット」から「多品種・小ロット」への転換です。一時は、大口の注文をもらうために自動車関連会社と取引をしようと考えたこともありました。しかし、そうすると大手ばね屋の下請けになり、毎年のコストダウン要求に耐え続けていかなければなりません。そういうやり方は、うちのような小さい会社には合わないと感じました。

そこで、お客様が作りたいばねを1本からでも注文できる、「多品種・小ロット」へと大きく舵をとりました。積極的な営業は行っていませんが、ありがたいことに、口コミや展示会、県の産業創設支援機構(ISICO)の方からの紹介等を通して、ご注文をいただいております。

現在の取引先は、繊維、食品関係、建機、工作機械、医療機器、バス・トラックのシート関係など様々で、北海道や四国、中国地方などの広範囲のお客様、約150社に納品しています。

 

ばねはどのように作られるのか

当社のばねは、機械で巻くものと、手で巻くものがあります。手で巻くばね屋は全国的にも少ないので、重宝されています。ばねの素材は、簡単に言えば、ピアノ線のようなものです。ピアノ線は一般的な金属よりも硬く、強度があります。

直径16mm以下の材料は、「冷間加工」といって常温で曲げ、16mm以上の材料は、「熱間加工」といって熱を加えて柔らかくして曲げていきます。巻いたばねが元に戻ろうとする力を止めるために、「応力除去」といって、強度を増すための熱処理をします。最後にはしっかりと品質検査を行います。

このように、手で加工する部署、機械で加工する部署、研磨する部署、熱処理する部署、検査する部署などに分かれています。

設計については、お客様にいただいた製品図面を基に製造することがほとんどです。新規のお客様に対しては、ばねの強度についてアドバイスをすることもあります。

 

新規取引の多さで、常に新しいものづくり

この仕事のやりがいは、常に新しいお客様に出会えること。中小企業の多くは、決まりきった取引先と仕事をすることが多いのではないでしょうか。ところが当社は、展示会や口コミなどで、毎年ごとに何件か、新規のお客様との取引が増えていきます。つまり、常に新しいモノづくりをすることができるんです。

これまでに作っていて面白かったのは、イノシシ捕獲用の罠、シャンプー台、釣り用ルアーなどですね。釣り用ルアーの芯のばねは、引っ張り試験を繰り返し行いました。大きい魚を釣ったときの重さに耐えられるかどうかは、ばねに掛かっているからです。ばねって意外なところに使われているものなんですよ。表からは見えないことも多いです。

これまでに作った中で最大のばねは、トラック車両に使用されるばね、最小は、携帯電話の中のばねです。これは肉眼ではほぼ見えません。大きなルーペを使い、やっと見えるというサイズなので、製造中は機械が空回りしているように見えるくらいです。

 

毎朝10分の全員清掃、社内・機械・近所まで

始業時にラジオ体操を行う企業は多いですが、中には適当に済ませてしまう従業員も多いように思います。そこで、当社では準備体操の代わりに、「雑巾を持って機械を磨こう!」、「箒を持って外に出よう!」と、毎日始業前の10分で、工場の機械の清掃のほか、工場の外まで全社員で掃除をしています。この取り組みを始めて10年ほどになります。

お客様や近所の方が歩いた時に、小さな金属くずひとつ落ちていない、ここがばね屋だとはとても気付かないような、そんなばね屋でありたいんです。そうやって掃除を続けていたら、仕事の効率や安全性が上がるだけでなく、「いつも掃除しているね」と、近所の方々にも良い評判が広がるようになりました。

 

険しい道のり、改革期を経て

実は、私が平成11年にこの会社で働き始めたときは、工場の床にはスクラップなどが散乱していたのです。当時、会社を継ぐためにやってきた私は、まるでゴミ捨て場のような様子に愕然としました。退社時に鍵を閉めないので帰ろうとするので、なぜかと尋ねると、泥棒にガラスを割られたくないからと、驚きの言葉が返ってきました。こんな調子では3年もしないうちにこの会社は潰れてしまうだろう、大きく変えなければいけないと決意しました。それからは、私の改革に反発して、会社を去る者も多くいました。

しかし、平成16年に社長に就任して以降も、従来のあり方を大きく変えていきました。

 

国際認証の取得

まず、ISO9001(品質マネジメントシステム)の認証を取得しました。ISO9001は、「顧客満足度」を目的とし、顧客に品質のよいモノやサービスを提供するための国際認証です。

では、顧客満足度のためなら、排気ガスで環境を汚してもいいのだろうかと、環境問題へ注目が集まる時代となり、「環境保全」を目的としたISO14001(環境マネジメントシステム)の認証を平成18年に取得しました。

「顧客満足度」も良く、「環境」にも良い企業にはなったとはいえ、工場内で事故が起きたらそれは良い企業とは言えません。そこで、従業員の「安全な労働環境」を目的とする、OHSAS18001(労働安全マネジメントシステム)の認証を平成22年に取得しました。

 

「残業ゼロ」実現へ

当社では現在、時間外労働を禁止しています。いわゆる「残業ゼロ」です。怪我や事故を防ぐ「安全な労働環境」をOHSAS18001で追求する中で、長時間労働には、怪我や精神疾患になりやすいリスクがあると考え、より高い目標を掲げて「残業ゼロ」の決断をしました。平成22年のことです。

それまでは残業も休日出勤も非常に多かったため、従業員も「納期が間に合わないのではないか」と、非常に戸惑っていました。しかし、結果的には、残業ゼロにした後でも納期が遅れたことは一度もありませんでした。実施のための障害は多かったが、とにかく残業をやめることから始め、問題が発生したらその都度、解決策を探っていきました。

従業員は早く帰宅できるようなり、家族とのふれあいや自らのスキルアップのために時間を使えるようになりました。

 

国内6社目の安全衛生優良企業に

そんな取り組みが高く評価され、平成27年に厚生労働省より「安全衛生優良企業」の認定をいただきました。全国で6社目、加賀市内で初なのはもちろん、石川県内でも初の認定です。他には、銀行や有名企業、世界的企業の社名が並ぶ中、従業員規模20人弱に過ぎない弊社も、認定企業の仲間入りを果たしました。

現在の事業形態にたどり着くまでは、まさに山あり谷ありでしたね。

 

未経験者OK、粘り強く技術を身に付けて

現在、従業員数は19名。労働時間は7時間半(8時~定時16時45分)、もちろん残業はありません。男女比は半々です。女性も多く現場に出ています。細いばねの作業や検品、出荷も女性の方がやってくれています。平均年齢は30歳、会社の改革期に若い従業員が増えたため、現在は社員の平均年齢が低いです。一番年配は社長の私で51歳。一番若いのは20歳ですね。

ばねづくりに向いているタイプは、あきらめない方でしょうか。はじめの1~2か月は、ほとんど物になりません。最初のうちは、「こんな状態で、果たして出来るようになるのだろうか」、と気が滅入ってしまう人も多い。そこで、できるだけ数人を同時期に雇用し、孤立しないようにしています。ある程度仕事ができるようになった従業員は、ほとんど離職しません。

現在勤めている社員は皆、中途採用です。ばね屋自体が珍しいので、経験者という方はいません。未経験からでも大丈夫です。

 

事業データ
企業名:加賀発条株式会社
代表者:代表取締役社長 吉田孝之
所在地:〒922-0241 石川県加賀市加茂町ヲの89番の1
連絡先:TEL 0761-77-2351(代) FAX 0761-77-2207
事業内容:スプリング製造業、ワイヤー加工
ISO規格:ISO9001:2008、ISO14001:2004、OHSAS18001:2007