一人ひとりの可能性を
最大限伸ばす教育改革

温泉街や城下町といった多彩な町並みを有する石川県加賀市には、山側から海側にかけて小学校17校と中学校6校があり、大小さまざまな学校が存在します。都市部とは異なる子育て環境を求めて、移住を決断するご家族もいらっしゃいます。

今、加賀市では、市内すべての小中学校を舞台に、教育改革が進められています。子どもが主役となれる学校づくりを目指し、2023年1月には学校教育ビジョンが打ち出されました。

そのスローガンは「Be the Player 自分で考え 動く 生み出す そして社会を変える」です。加賀市教育委員会のInstagramでは、各学校の授業風景などを分かりやすく発信しており、イキイキと学ぶ子どもたちの姿が伝わってきます。

個性を伸ばし、クリエイティブな発想を引き出し、一人ひとりの可能性を最大限開花させる教育を目指す石川県加賀市。この記事では、教育改革を推進する「加賀市教育委員会」の取り組みを、ご紹介します。

※この記事は加賀市教育委員会の島谷千春教育長への取材をもとに作成しました。(2023年10月)

 

学校の主役は、未来を創る子どもたち。

2022年12月、加賀市内6校の中学生が集まり、12チームによる提案のプレゼンテーションがありました。それらの発案は、身の回りの自然環境や生活、観光や工芸などに着眼しており、いずれも地域課題の解決に軸足を置いています。中にはAIや自動運転を活かした提案も見受けられ、子どもたちがテクノロジーについて理解を深める機会になっていることも伺えます。

たとえば、あるチームは「獣害をテクノロジーによって防ぐ装置」を提案をしており、その内容はYouTubeにも公開されています。

発表したのは橋立中学校の2年生(当時)です。生徒たちはクマの目撃件数や、イノシシによる農作物の被害額といったデータをグラフや表などで分かりやすく示し、従来の獣害対策の限界を指摘しています。そのうえでクマ、イノシシ、サルが実は臆病な性格であるという分析を行い、新たな解決策としてAIの活用を提案しています。

そして驚くべきことに、試作品を開発まで取り組んでいます。カメラの画像認識で人と野生動物を区別し、クマやイノシシ、サルに対してのみ警告音を発する「野生動物の撃退装置」を様々なテクノロジーを組み合わせて製作しています。撃退装置が目立たないように、落葉に見立てたデザインまで施されており、大人顔負けのクオリティとなっています。

まさに子どもたちが主役となり、身近な社会課題を分析し、その解決策を探る能力が着実に身についていることを感じさせるプレゼンテーションに仕上がっています。

このような学習を、加賀市では「STEAM教育」の一環として取り組んでいます。

 

STEAM教育とは?学校と社会を結び付ける子どもたち

そもそもSTEAM教育では、分野横断的な学びが根底にあります。

この言葉は
・科学(Science)
・技術(Technology)
・工学(Engineering)
・芸術やリベラルアーツ(Arts)
・数学(Mathematics)
の頭文字からなっており、この5分野の学びを活かしながら、課題解決に取り組みます。ちなみにArtsには芸術のみならず生活、文化、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲を含んでいます。

通常、学校では教科ごとに授業が進められます。そこで、あえてSTEAM学習の時間を設けることで、子どもたちはあらゆる分野の知見を結び付けていきます。ある分野の課題が、まったく別分野から生まれたアイデアがきっかけとなり解決に向かう事例は、実社会においても多々あります。それゆえ学校という場で、分野横断的に学ぶことは有意義な取り組みです。

授業のなかで、子どもたちは頭をフル回転させながら、問いと発案を繰り返していきます。

加賀市はSTEAM教育によって、子どもたちが「問い続ける姿勢」「教科横断的に探究する姿勢」「課題解決する力」を養える環境づくりを目指しています。

先の例のようなプレゼンテーションを発表する授業は、中学2年生の「総合的な学習の時間」のなかで取り組まれています。イノシシによって畑を荒らされるという農業分野の課題に対して、生物学や数学的思考、テクノロジーなど多分野の知見を活かそうとする姿勢も伺えます。

それぞれの中学校では3~4か月かけてSTEAM教育に取り組んでおり、テクノロジーに詳しい学校外部の人たちの手も借りています。授業のプロセスは学校や先生によって異なるものの、いずれも子どもたちが主役となって分野を越え、探究し、知を創造します。

周囲の大人たちは、それを支える存在であり、問いを立て、対話による学びを後押しします。そして2024年度からは中学校だけでなく、市内すべての小学校においてもSTEAM教育に取り組むため、カリキュラムを再編成しています。

 

なぜSTEAM教育が重要なのか?


昨今、社会は目まぐるしいスピードで変化しており、その背景にある科学やテクノロジーの進歩には見過ごせないものがあります。

加賀市ではSTEAM教育に取り組み始める前から、子どもたちがテクノロジーに触れられる環境づくりを進めてきました。

2017年には、市内すべての小学校の4年生以上で「プログラミング学習」に取り組んでいます。これは全国的に小学校段階でプログラミングが必修化される2020年より3年早く、先駆けとなっています。

2019年5月には「コンピュータクラブハウス加賀」がオープンし、3Dプリンタや動画編集ソフトなどを子どもたちが無料で使える施設が整います。

そして2020年の8月には、児童生徒に1人1台の端末を整備しました。国のGIGAスクール構想を受け、石川県内で1番早く整備を完了しています。

このように地域をあげてテクノロジーを使いこなせる人財育成に取り組んでいます。子どもの頃から基礎的な知識や技術を身に付けられる環境を設け、将来はさらに高度なロボットやAIを駆使する人財を育むことが、地場産業の底上げにもつながると考えています。

コンピュータクラブハウス加賀

そこからさらに発展させ、小中学校の教育改革が始まりました。

STEAM教育を通じて、子どもたちに実感してもらいたいことの1つは、テクノロジーの力を借りることで課題解決の幅が大きく広がるということです。これから世の中で生きていく当事者として、テクノロジーと社会のつながりを感じてもらいたいという狙いがあります。

課題解決型の学習を進めるにあたり、子どもたちには自ら考え、助け合い、社会に働きかける能力が求められます。こうした基礎は一朝一夕では磨けません。時間がかかるうえ、日々の習慣も重要です。なによりも子どもたちが自ら探究する姿勢が肝心となります。

そこで普段の授業が重要な役割を果たします。小学校と中学校が一貫して、日頃の「学び方を変える」必要があります。

それゆえ加賀市では、教員への伴走型支援を行っています。2022年度、まずは各学校から先生を募り、「子どもが主役」の授業づくりに試みました。そして他県の学校を視察し、授業を変えるヒントを得に行きました。

さらに、先生方の挑戦を支援しているのがプロジェクトマネージャーです。3名のプロジェクトマネージャーが市内の各学校を巡り、先生たちの教育改革に伴走しています。

 

日々の授業を変える、一人一台の端末。

ある授業風景では、黒板の前に先生の姿はありません。子どもたちは4人1組のグループとなり話し合う授業が展開されています。黙々と1人で取り組む子もいれば、立ち歩いて教える子もおり、ときにはグループを越えて学び合う様子も伺えます。

児童生徒が自ら学ぶ傍ら、先生は教室を巡回しています。ときどき立ち止まり、子どもの横にしゃがみ、相談相手となり、学習を個別にサポートします。

子どもが主役の授業において、先生の役割は「教える」ことよりも、「伸ばす」ことに重きが置かれています。たとえば「問い」を投げかけ、子どもたちが自分で答えを見つけられるように手助けします。それゆえ、この授業では、先生が教える時間は短く、児童生徒が自ら考える時間を長く設けます。

このような「伸ばす学習環境」を築くうえで、ICTは様々な効果を発揮します。


学校で配られる一人一台のノートパソコンやタブレットは、授業中のコミュニケーションのあり方を大きく変えます。たとえば、子どもたちはオンライン上のホワイトボードで、他の児童生徒や先生とアイデアを共有しながら、授業を進めていくこともできます。

小学1年生のようにタイピングが余りできない年齢であっても、ディスプレイに文字を書くことはできます。写真を撮り、画面で共有することもできます。

小学2年生の国語において、タブレット端末を駆使する授業風景が見られます。スピーチを練習する時間で、子どもたちは2~3名のグループになり、お互いの発表を録画します。その動画を撮りためることで、自分の話し方を振り返ることが可能となり、過去と現在を比べられるようになります。

そして友だちからもアドバイスをもらい練習を繰り返します。次に3年生に見てもらい、さらに改善していきます。最終的には、別の小学校とオンライン会議システムで繋ぎ、発表し合う「遠隔交流授業」も実現できます。

デジタル端末によって子どもたちのコミュニケーションを活性化させる意義の1つは、「学び方を学ぶ」環境づくりです。児童生徒は、友だちや上級生から触発されて、新たな学び方をぐんぐんと吸収することもできます。

また地域の人からアドバイスもらう授業では、オンライン会議システムが活躍します。中学2年生の社会科では、大きなモニターに経験豊富な市役所の職員が登場し、生徒が考えた政策に基づいて、意見交換する授業が展開されていました。ICTは学校と地域を繋ぐ存在でもあります。

このように、うまく人の力を借りることが、結果として自分自身を伸ばすことになり、それが世の中を渡り歩いていく際にも重要なスキルになります。

先生たちはICTを授業デザインに活かし、子どもたちがお互いに伸ばし合う教室づくりに取り組んでいます。

 

わくわく学ぶ、ヒントやミッションといった仕掛け


授業中に、子どもが主体性を発揮するには、学ぶことの楽しさを感じてもらうための仕掛けづくりも欠かせません。

ここでも一人一台の端末が活躍します。たとえば、ある課題に取り組んでいる際、端末から「ヒントカード」を見られるようになっています。ほかにも「説明動画」や「お助けボタン」が用意されていることもあります。また、手書きのヒントが教室の壁に貼られていることもあります。

このようにデジタルとアナログの両方の良いところを活かして、子どもが躓きそうになった時に、背中を押すような学習環境が設けられています。それでも行き詰まった時には、教室を巡回している先生に助けを求めることもできます。

ときにはミッションを与えられることもあります。「自分の考えを、次の出席番号の人と議論せよ」という指令に沿って、友だちとの意見交換を促します。

子どもたちは学習する過程で、ヒントやミッションが与えられ、友だちや先生の力も借りながら、課題を乗り超えていきます。このようにゲーム感覚で楽しみながら学べる授業がデザインされています。楽しさは連鎖しながら、まわりの子どもにも伝わり、協力しながら一緒に学び、それ自体が楽しくなるという好循環を生み出す効果も期待できます。

子どもが主役となる授業を実現するために、「学ぶことは楽しい」と感じられる工夫を、先生たちは授業の至る所に施しています。

 

一人ひとりの歩幅で、のびのびと学ぶ。

そもそも教室には多様な子どもたちが集まっています。算数が得意な子、国語が苦手な子、好奇心が旺盛な子、勉強嫌いの子、発達に遅れのある子など一人ひとり異なる特徴を持っています。ここで問題になりやすいのは、授業についていけなくなる子どもが現れてしまうことです。

黒板に書かれていることが理解できずに、教室のなかで置いてきぼりになったような感覚を味わったことのある人も多いのではないでしょうか。疎外感を抱き、勉強に苦手意識を持ってしまう子もいます。「自分にとって、学びやすい方法は何か?」この問いに関する答えは、子どもによって異なります。

「子どもが主役」となる授業スタイルを可能にしている道具の1つが、児童生徒に配られる学習計画表です。

学習計画表には「何をどこまで学ぶべきか」が記されており、子どもたちはそれを見ながら「今日はここまでやろう」という目標を立てます。学習のゴールを自らイメージするからこそ、自分のペースで学んでいく授業が成立します。

まずは子どもたちとの信頼関係を築き、学びを委ね、任せることで、一人ひとりに合った「個別最適な学び」が促されます。それにより授業の置いてきぼりを防ぎながら、自主的にぐんぐん進んでいこうとする主体性を育む効果も期待できます。

 

子どもが先生になる協働的な学習

「子どもが主役」の授業スタイルでは、児童生徒が助け合いながら学ぶ姿も伺えます。

学び合う教室づくりは、どのように実現できるのでしょうか。

たとえば「学習計画表」「ヒントカード」によって自らのペースで学べる環境をつくり、「ミッション」を活用し、対話が生まれる状況を生み出します。そして分からないところは友達に聞き、意見を交わす。こうした学習の繰り返しによって、協働する習慣が身につく効果を期待できます。

子どもたちが教え合うことの利点は、これだけではありません。そもそも人に教えるという営みは「知識の再構築」です。分かったつもりであっても、いざ人に説明する際にはうまくできないことがあります。そこには論理的な言語表現も求められます。それが人に教えられるようになることで、簡単には忘れられないものとして知識が定着するのではないでしょうか。ときには、子どもが先生役となるミッションを課すことで、自分自身の理解度がグッと深まることもあります。

知を伝え合うことの意義は、STEAM教育にも活きてきます。学び、伝え、助ける習慣が基本となり、グループで進める課題解決型の学習がスムーズに行えるようになります。

そしてSTEAMの授業において、身近に潜む社会課題を問い直し、探究し、知を創造する方法を養います。自ら社会に働きかけることで、日常的な「学び方」もバージョンアップされるのではないでしょうか。このように日々の授業とSTEAM教育は連環しています。

普段、子どもたちが駆使しているデジタル端末は、よりのびのびと、より協働的に学ぶことの助けとなります。

子どもの個性を伸ばし、クリエイティブな発想を引き出す学校づくりを目指す石川県加賀市は、一人ひとりの可能性を最大限開花させる教育を進めています。

 

加賀市教育委員会の関連リンク

学校教育ビジョン https://www.city.kaga.ishikawa.jp/ed/10105.html
Instagram https://www.instagram.com/education.kagacity
Facebook https://www.facebook.com/education.kagacity

 

移住体験

加賀市定住促進協議会では、移住のサポートを行っております。より良い教育環境を求めて、小中学校を探しているご家族に移住を検討いただくために、仕事や住まい、暮らしに関するの相談も承っています。

市内の小学校17校と中学校6校は、様々なエリアに分散しています。温泉街や城下町、農村や漁港などそれぞれの生活環境も見比べながら、移住の準備を進められるよう、最大3泊4日まで無料で利用できる「お試し住宅」を運営しています。

学校の外にも、地域に根差した歴史や自然、文化やスポーツ、コミュニティやサードプレイスなど加賀市には子どもの教育に活かせる資源が沢山あります。ぜひ一度、お越しください。

お試し住宅について