製茶と喫茶のこれからを探求する工場
日本茶ルネッサンスをテーマに、奥深い茶文化を見直し伝える。

丸八製茶場は、加賀棒茶をはじめとするほうじ茶を製造する企業です。製茶業のほかにも様々な取り組みを行っています。自ら小さな茶園も営み、工場に併設した日本茶カフェでは、器や急須にこだわり五感でお茶を味わえるもてなし空間を提供。社内には茶室もしつらえています。幅広い活動を通して日本茶文化の在り方を探求する姿勢について取材してきました。

代表取締役 丸谷 誠慶さん
代表取締役会長 丸谷 誠一郎さん

 

 

昭和天皇へ献上のため高級棒茶開発に挑戦

丸八製茶場の看板商品である「献上加賀棒茶」は、昭和天皇が加賀温泉郷にご宿泊されたことがきっかけで生まれた高級棒茶です。お茶には、煎茶、玉露、番茶などさまざまな種類がありますが、当時、棒茶といえば庶民が日常的に飲むもの。値段も煎茶や抹茶と比べ安価なものでした。

しかしそこへ、「陛下はほうじ茶しかお飲みにならない。最高級のほうじ茶を作ってくれないか」と宿泊予定の市内ホテルから依頼が舞い込んだのです。

大変な難題をいただいたと頭を抱えながらも、「まだ誰もやっていないことをやろう。誰も作ったことのないものを作ろう」と覚悟を決め、素材探し、焙じかた、淹れかた等あらゆる方面に至るまで一新するつもりで研究を進めました。あらゆる試行錯誤を重ねに重ねて完成させたのが、献上加賀棒茶です。

 

ホテルとコラボレーション

棒茶は茶の茎を焙煎して作ります。その際に、安価な茎を焦げ茶色になるまで深煎りするのが従来の一般的な棒茶の製法でした。そこを良質な茎を使用し、浅煎りに仕上げることで、あのなんとも言えない芳ばしい香りに辿り着きました。焙煎直後の茶茎の表面温度が220℃に達するように30秒ほど焙じることで、棒茶の香りを引き出していきます。茶茎は静岡、宮崎、鹿児島産をブレンドしています。

実は、献上時に生産できたのはたったの5㎏。それを桐箱に詰め、陛下へお出しくださいと差し上げました。市場での販売に回せるほどの量はありませんでした。その後ホテルから改めて、「献上加賀棒茶を売店で売りたい」と声をかけていただき、翌年からの商品化に踏み切ったのです。数年後、ありがたいことに、雑誌「クロワッサン」に取り上げていただき、毎日のように電話が鳴り響きました。全国各地から約400名のお客様から注文が入りました。

献上加賀棒茶は、いわばホテルと製茶場のコラボレーションによって誕生した商品なので、今後も観光業の方々ともタッグを組むことによって業界を盛り上げていきたいですね。

セラミックバーナーで焙煎される棒茶

 

「社員の成長と深化」を促す

丸八では「社員の成長と深化」を目標に掲げ、様々な制度設計、研修プログラムの実施、プロジェクトに取り組んできました。たとえば、「日本茶インストラクター」の資格取得を目指す社員には、初回の受験費用を補助し、資格取得者には月額2万円の資格手当を支給する制度を設けています。また、お茶の先生を招いて「茶道教室」を月二回開いています。さらに、社員研修の一環として「茶摘み」も行っています。

社員同士のコミュニケーションを促すイベントや催事を通して、社員たちの関係性を活性化させる取り組みには今後も力を入れていきたいです。我々もそうした場に顔を出す機会を増やし、社員と直接対話する場を設け、現場で働く人たちのアイデアに耳を傾けたいと考えています。

新茶の季節、毎年社内で茶摘みイベントを開催

 

製茶体験ツアーづくりに意欲

丸八では、試験的に茶園を作っています。将来的には、お客様にその茶畑をご覧いただいたり、焙煎過程を工業見学していただくツアープログラムの開発も視野に入れています。もうすでに山代温泉の旅館から海外のお客様をお連れいただいています。

いまや、日本茶はインターネットで購入できる時代です。だからこそ現場でしか体験できないことを提供し、棒茶の新しい価値を味わっていただくことも大切になるでしょう。

ほかにも、社内にある茶室をリニューアルし、場合によってはそこを宿泊施設として利用してもらうのもいいかもしれません。1泊2日か2泊3日で、茶摘みから焙煎、さらに喫茶までを一貫して見学・体験できるプログラムが作れたら、海外からお越しになった方にも日本文化を堪能いただけるのではないでしょうか。

丸八にはこれまで築いてきた数々の資源があります。工場や茶園、茶室などの資源をもっともっと活かしていきたいです。

工場に併設された茶房「実生」

 

移住者の力で企業は変われる

実は、その茶室や茶園をつくることを提案してくれたのが、一人の移住者でした。「一人の人間によって、会社はこうも違ってくるもんだな」と実感しました。彼は大学3年生のときに、「ぼくはお茶が好きです。ちょっと話を聞かせてください。」とわざわざ加賀市まで来てくれたんです。まだ求人募集もしてなかった頃にです。

その数年後に入社し製造部門で働いてもらうことになったのですが、彼のおかげでわが社も随分チャレンジをしました。彼の提案によってビニールハウスの茶園を作ったり、「茶道は日本の文化を考えるうえでも非常に大事なものだから、ぜひやりたい」ということで、茶室も改装しました。

彼のように熱意をもった人財がもっともっと入ってきて、わが社で夢を実現してくれたら面白いことになるでしょう。これからは、若者の夢を応援する企業という姿勢が必要になってきます。

 

加賀の茶園の再生という夢

この加賀の地は、伝統ある茶の産地です。城下町で育まれた日本茶への想いが野に咲いていますよ。今も市内の塩屋や瀬越や橋立といった海に近いエリアには、自然園のように茶の樹が生えています。加賀の気候で育まれた野生の種から茶を栽培できれば、伝統的で貴重な日本茶を作ることができ、きっと面白い展開になります。

そのためには、高品質の茶をまとめて収穫できる環境が欠かせません。現代の科学力と技術があれば、宇治や静岡にも匹敵する茶を栽培することもできます。たとえば丸八の「茶葉生産部門」を新設し、栽培から製茶まで一貫して進めていくことは可能かもしれません。

そこでも人財が要となるでしょう。熱意をもって茶の生産に取り組みたいという人が必要です。

採れたての茶葉を揉む。社内の茶摘みイベント。

 

新しい喫茶スタイルを提案

日本茶の市場は残念ながら縮小傾向にあります。海外に抹茶などを輸出する流れもありますが、外国人が観光で日本を訪れ、日本人が習慣的に日本茶を飲んではいない現状を知ったらどう感じるのでしょうか。輸出より前に、まず日本人がかっこよく日本茶を飲む姿を見せていくことが先なのではないでしょうか。

しかしながら、家に急須を持っていない方も沢山いらっしゃる時代です。

こうした現状の中で、いかに活路を見出すか。コーヒー業界が参考になります。あれだけコーヒーの淹れ方や道具にこだわる人がいるのですから日本茶ももっとできるはずです。幸い、「日本茶については白紙状態」の方も少なくありません。飲むスタイルをかっこよくするのか、急須のかたちをデザインするのか、他業界から見習うべきヒントは沢山あります。

まずは国内で日本茶を飲むシーンを増やし、海外から観光客がお越しになった際に、日本人が喫茶する姿を真似したくなるような状況を作っていきたいですね。

単に日本茶を製造するだけでなく、日本茶を飲むシーン全体を作っていくことが私たちの仕事です。私たちの想いに共感し、新しい喫茶スタイルについて考えて下さる方と、ぜひ一緒に働きたいです。お待ちしています。

急須のない家庭でも日本茶を味わえるティーバッグ

 

<事業所データ>
株式会社 丸八製茶場
代表者:代表取締役 丸谷 誠慶
所在地:〒922-0331 石川県加賀市動橋町タ1番8
連絡先:TEL.0761-74-1557 FAX.0761-75-3429
事業内容:製茶業
URL  : http://www.kagaboucha.co.jp/
採用URL: http://kagaboucha.co.jp/web/company/recruit/