若手社長が挑む「旅館」と「温泉街」のマネジメント
趣きある景観を活かし、歩きたくなる温泉街をつくりたい。

代表取締役社長 / 吉田 有志さん
人口減少の煽りを受ける旅館業では、多忙な労働環境の改善が課題となっています。そうした状況下において、山代温泉で旅館を経営する吉田社長は、役割分担の見直しなどを進め、スタッフが接客に専念できる旅館づくりに取り組んでいます。「旅館」と「温泉街」双方の改革を進めてきた若手社長の奮闘をご覧ください。

 

山代温泉の奥、高台の森に構える温泉旅館

山王閣の創業は江戸末期、今から約200年前です。山代温泉エリアに位置する多くの温泉旅館がそうであったように吉田屋山王閣も、かつては「総湯」と呼ばれる湯屋を囲うように館を構えていました。旅館にお泊りになったお客様が、総湯まで出向いて湯につかるスタイルが、昔の山代流。それから昭和30年代、団体客が増え始め、他の旅館さんが大型化していくよりちょっと早くに、うちは旅館を移転させました。

現在は山の麓に旅館を構え、お客様を出迎えています。山代温泉の奥にあると言えばそうなのですが、階段を使えば温泉街からも5分ほどで来られます。場所としては近いですね。

 

仲居スタッフの負担軽減策

社長になって1年半、今は38歳です。働き方改革を進めており、スタッフの負担軽減を心がけています。最近では、バイキング形式のお食事処を設け、従業員の仕事量を減らしました。従来通りに朝食・夕食をお部屋出しにしていると、毎日12~13人のスタッフが必要になりますが、バイキング形式ならばお部屋が全館満室の日でも4~5人で回すことができます。

また勤務時間の「たすき掛け」も廃止していこうと思っています。「たすき掛け」というのは、仲居さんに夕方出勤してもらい、朝まで勤務してもらう労働時間の管理方法なのですが、それも止める方向で進めているところです。

 

接客に専念できる職場づくりを目指して

今後はバックヤード部門の改革にも力を入れます。手間がかかる業務も、機械の導入で効率化できるのであれば投資をします。

現状、チェックアウト後の清掃やお部屋準備は、業者さんに外注しています。その方法も当館用にカスタマイズしてもらっていて、仲居さんが接客に専念できる職場環境も整いつつあります。

仲居さんには接客に集中してもらうことで、お客様との良好な関係を築いてもらうことができますね。結果として双方の満足度向上を目指しています。

接客好きであれば、採用は老若問わず

基本的には「接客好き」の方を募集しています。年齢は不問です。もちろん若い方に働いてもらうことには良い面もありますが、厳しい現実もあります。他の旅館では10人も新規採用したが、1年後には2人しか残っていないという話も聞きます。

昨今の旅館は365日営業ではなくなりつつありますが、基本は24時間営業です。当然定時には帰れないスタッフもいます。そこは隠すことなく打ち出しています。接客の基本はお客様の目線。「ゆるい環境」を望む求職者が来られるのもちょっと。

しかし休日が少ないと疲れも癒えない。たとえば閑散期や工事期間を活用しながら休館日を作り、世の中の雇用条件に合わせていきます。ただ一方であまり世間に寄せすぎると、スタッフが緩んでしまわないかなという懸念は、経営者としてありますね。

ですから「接客好き」であることが大前提です。60歳前後で「退職後は日々温泉に浸からながら働きたいです」というご年配も歓迎します。日本の労働人口が減りつつあるので、今後は60代前半でも取り合いの時代になると思います。

 

店が軒を連ねる「歩ける温泉街」を提案

今後は旅館業をベースに、新しい取り組みにもチャレンジしていきたいです。昔の山代温泉は、総湯を中心に旅館や商店が立ち並び賑わっていたのですが、今は空き店舗が目立ちます。

かつて京都のような趣深い路地を目指し、当地の温泉街を整備する事業に僕も関わっていました。山代温泉の総湯広場を中心に放射状に道が伸び、ところどころに観光客が立ち寄れるポイントを作っていくデザインだったのですが、上手く行きませんでした。生活道路でもあるので、観光客ばかりを優先するわけにもいきませんし。

前回の失敗を活かし、また一矢報いるつもりです。吉田屋の土地が、総湯の横にあるので、あの一等地を活かして、お客様が立ち寄れるポイントを作っていくことも頭の中にあります。

温泉街にふらっと立ち寄れるお洒落なbarや居酒屋が軒を連ねるようになれば、旅館からお客様が出歩くようになるはずです。総湯の周りや裏通りにお店がまとまるような「歩くのが楽しみで訪れる温泉街」を作っていきたいです。

 

<事業所データ>
株式会社 吉田屋(吉田屋 山王閣)
代表者:吉田 有志
所在地:〒922-0242 石川県加賀市山代温泉18-118
連絡先:TEL.0761-77-1001
事業内容:温泉旅館業
URL :http://www.sannoukaku.com/